ベートーヴェンへのトータルな視点を伝える
アンスネスのリサイタルでいつも感心させられるのは、その響きのピュア度である。彼ぐらいの知名度になるとホールは中小というわけにはいかない。大ホールだ。ソロで大きなホールを無理に響かせようとすると、サウンドが毛羽立ったり、音楽にヘンな力みが加わってしまうのは、それなりのベテランでも時折耳にする。だがアンスネスが弾く楽器からは、いつも素直な音が立ち上がり、ホールをいっぱいに満たす。しかもスケールの大きなこのサウンドは、北国の透明で、きりっと冷たい空気の感じを、どこか想起させるのだ。
そんなアンスネスは40歳を超えた2012年から、ベートーヴェンという偉大なる山脈を踏破する長い旅に出ている。最初の成果はマーラー・チェンバー・オーケストラとのピアノ協奏曲第1番・第3番。すでにCDリリースされており、残り3曲も完成させたあかつきには全曲お披露目公演が日本でも予定されている(2015年12月)から、今から楽しみだ。
今回の来日は、その前哨戦ともいうべき位置づけになろう。プログラムはもちろんオール・ベートーヴェン。しかも初期(第11番)、中期(第23番「熱情」)、後期への入り口(第28番)という作風の変遷を網羅したソナタ群に、ベートーヴェンが好んだ変奏曲(創作主題による6つの変奏曲op.34)を加えている。この包括的な選曲はアンスネスのベートーヴェンに対するトータルな視点を、要約して伝えてくれることになるのだろう。その指先は、私たちの眼前にどんな楽聖の像を描き出してくれるのだろうか。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2014年3月号から)
★4月9日(水)・東京オペラシティコンサートホール Lコード:37365
問:ジャパン・アーツぴあ03-5774-3040
http://www.japanarts.co.jp
他公演
4/6(日)・兵庫県立芸術文化センター Lコード:55594
問:0798-68-0255
4/8(火)・武蔵野市民文化会館
問:0422-54-2011