【CD】チャイコフスキー:交響曲第6番「悲愴」/フェドセーエフ&チャイコフスキー・シンフォニー・オーケストラ

 フェドセーエフの「悲愴」は、どこまでも温かい。諦念や絶望の淵に突き放すことはない。50分超、広大な流れの中で、すべての音が、豊かに息づき、聴く人を包み込む。9分かけて歌い込む第2楽章の感動の深さたるや。第4楽章は「アダージョではなくアンダンテ」と90年代にいち早く主張したマエストロ。今回は11分半をかけながら、どこにも停滞感はない。結尾の低弦が途切れるまで、確かな「歩み」が続く。自らの最期もかくありたいと嘆息するほどに。示されたのは、巨匠が辿り着いた遥かな境地。そして、これほど感情の襞に入り込む演奏が、いま存在し得ることの希望。
文:林 昌英
(ぶらあぼ2021年5月号より)

【information】
CD『チャイコフスキー:交響曲第6番「悲愴」/フェドセーエフ&チャイコフスキー・シンフォニー・オーケストラ』

チャイコフスキー:交響曲第6番「悲愴」

ウラディーミル・フェドセーエフ(指揮)
チャイコフスキー・シンフォニー・オーケストラ(旧モスクワ放送交響楽団)

エイベックス・クラシックス
AVCL-84114 ¥3300(税込)