ジョナサン・ノット(指揮)

私が常に意識しているのは、経験を聴衆と“分かち合う”ことです

 この4月から東京交響楽団の音楽監督に就任する、ジョナサン・ノット。首席指揮者を務めるバンベルク響に黄金時代をもたらし、ベルリン・フィル、ウィーン・フィルなどに客演を重ねるこの世界的名匠が、前任者スダーンによって磨き上げられた東響の精緻でノーブルなサウンドに、いかなる味付けを施すのか? 期待と注目が集まる。
 東響には、2011年10月の定期演奏会で初めて客演し、ラヴェル「ダフニスとクロエ(全曲)」などを指揮。この1度の共演で音楽監督就任と相成った。
「新しいオーケストラとの関係においては、団員たちと楽に接することができるかどうか、自分の思い描く音楽作りを行えるか否かが重要ですが、東響では初共演でそれを実現できました。そして公演後空港に向かう途中でオファーを受け、24時間経たない内に承諾しました。相性はピッタリだと感じましたし、よい選択をしたと思っています」
 目指す方向性は明確だ。
「オーケストラの音は、楽器間のバランスを変えることで変化します。バランス感覚は団員個人によって違いますので、的確な指示が必要です。私はそうして各レパートリーに合う音を作っていきたいと考えています。ただ東響には、アメリカ的な音よりもドイツ的な音が必要とされていると思います。したがって、まずは美しくダークな音を出せるようにしたい。彼らは、非常に努力家で柔軟性もあり、常にベストを尽くしますから、それが加われば音楽作りがさらに楽しくなるでしょう。そして聴衆の皆様にメッセージがはっきりと伝わるレベル、オーケストラがどれだけ音楽を愛しているかが伝わるレベルにまで持っていきたいと思います」
 初年度は4回来日。新シーズンのラインナップも並々ならぬ意欲を感じさせる。
「最初は、指揮者とオーケストラが交わってひとつの魂となったときの可能性や、重要となるレパートリーを見つけるところから始めなくてはいけません。実際には、ハイドンから藤倉大までの作品に、その間のものを入れていくわけですが、ドイツ的な音を目指す観点から、中〜後期のドイツ・ロマン派の音楽を主に取り上げ、ベルクやウェーベルンも加えました。中でもマーラーとベルクは、19世紀の音と20世紀の美意識が融合する地点にある音楽という意味で重要視しています」
 4月の就任披露公演では、2つのプログラムを指揮する。1つは、武満徹「セレモニアル─秋の歌」にマーラーの交響曲第9番が続く、彼の個性全開のプログラム。特にマーラーは、バンベルク響と交響曲全曲演奏&録音を行うなど、ノットが近年最も力を注いでいる作曲家だ。
「私が常に意識しているのは、自分の経験を聴衆と“分かち合う”こと。マーラーの9番では、その意味で素晴らしい旅が待ち受けていると思います。私は、マーラーを他のどの作曲家よりも勉強し、膨大な時間を費やしてきました。また9番では様々な経験を重ね、多くのことを学んできました。これは、人間の経験を極限まで突き詰める音楽であり、人生を最後まで大事にし、最後は手放す…といった作品。私が長年の間に得てきた知識や発見を皆様に伝えたいと思います。それに、私と東響と聴衆が一丸となった“チーム”で最初に極限を体験するのは、とても意義あることではないでしょうか」
 2つ目は、ウェーベルンの「5つの小品」、シューベルトの交響曲第4番「悲劇的」、ブラームスのピアノ協奏曲第1番と、ウィーンで活躍した作曲家が並ぶ、これまた示唆に富んだプログラム。新しい感触をぜひ体験したいし、ウィーンで研鑽を積み、ノットも期待する若き実力派ピアニスト、佐藤卓史のソロも注目される。
 もう1つ、ノットは有数のオペラ指揮者だけに、来年3月のワーグナー《パルジファル》抜粋にも触れておきたい。
「第2幕のパルジファルとクンドリのシーンが中心になります。私がこれを取り上げる背景にあるのは“謎めいた要素”。色々な発見がある作品ですから、自分にもプラスになり、東響にとっても私という人間をよく知る機会となります。もちろん先ほどからお話しているドイツ・ロマン派の音の深さを追求することもできます」
 また現代音楽の達人にして「日本のオーケストラとしてのアイデンティティも大事」と語る彼は、武満徹や藤倉大の「ファンタスティックな作品」も重視する。このほか、ブラームス、ブルックナー、ベルリオーズ、ブーレーズ等々の興味深い作品が目白押し。さらに今後は「ベートーヴェンの全交響曲。またモーツァルトのオペラ=『ダ・ポンテ3部作』をコンサート形式でやりたい」と意気込み十分だ。
 ノット&東響のエキサイティングな展開から目を離せそうにない。
取材・文:柴田克彦 写真:中村風詩人
(ぶらあぼ2014年4月号から)

ジョナサン・ノット 
東京交響楽団音楽監督就任披露演奏会
第45回川崎定期演奏会
★4月19日(土)18:00・ミューザ川崎シンフォニーホール Lコード:39645
第619回定期演奏会
★4月20日(日)14:00・サントリーホール Lコード:39257
曲/武満徹:セレモニアル(笙:宮田まゆみ)、マーラー:交響曲第9番
第96回名曲全集
★4月26日(土)14:00・ミューザ川崎シンフォニーホール Lコード:37336
第79回東京オペラシティシリーズ
★4月27日(日)14:00・東京オペラシティコンサートホール Lコード:39479
曲/ウェーベルン:管弦楽のための5つの小品
  シューベルト:交響曲第4番「悲劇的」
  ブラームス:ピアノ協奏曲第1番(ピアノ:佐藤卓史)
問:TOKYO SYMPHONY チケットセンター044-520-1511
  http://tokyosymphony.jp

  • La Valseの最新記事もチェック

    • 春野菜の焼きそばマエストロ風 | マエストロのレシピ Vol.11
      on 2020/04/22 at 01:32

      text & photos:曽我大介 コロナウィルスなどでなかなか外出しづらい日々が続きますね。こんな時こそ普段やらないような料理をしっかり作って見ませんか? 某中華の名店の真似をした、見た目もダイナミックな焼きそばです。 Vol.11 春野菜の焼きそばマエストロ風 材料(4人前) 焼きそばのあんの材料 野菜(これは一例で、取り合わせは自由に。写真を参照してください) 菜の花ひと束、筍の水煮1パッ […]