東京バロックプレイヤーズの上野星矢(フルート) & 島根朋史(チェロ)に聞く

若き名手たちによる現代にふさわしいバロック音楽のありかたを追求するアンサンブル

古楽とモダンの視点を自由にいききする新しいアプローチ

左:上野星矢 右:島根朋史

 フルートの上野星矢の呼びかけにより2016年に活動を開始した「東京バロックプレイヤーズ」。バロック音楽に、古楽とモダンの両方の視点を自由に行き来しながらアプローチする新しいタイプのバロック・アンサンブルだ。近年ヨーロッパでは、そうしたスタンスの奏者が多くなっているという。『目の眼』という古美術雑誌が主催するのも興味深い。18世紀のドイツの音楽を集めた3月のコンサートの聴きどころとともに、上野と、チェロ奏者の島根朋史の二人に、そんなバロック演奏の現在を聞いた。

 第二次世界大戦後のグスタフ・レオンハルトらを第1世代に、どんどん掘り下げられてきた現代の古楽演奏。20世紀末に至ると、それはもはや一部の演奏家や研究家の専売特許ではなくなり、わたしたち一般の音楽ファンのあいだでも、「オリジナル楽器(ピリオド楽器)を使ってこそ正統的なバロック演奏」という認識は広く定着した。しかし上野たち東京バロックプレイヤーズ(TBP)の活動は、それとはちょっと異なる。

上野「もともとはモダン楽器によるバロックのアプローチをより深めていくというテイストが強い団体です。
 最終的には全員オリジナル楽器で演奏するところに持っていきたいとも考えていますが、だたそれが最終地点という意味ではありません。ケース・バイ・ケースで、たとえば会場や曲にあわせてフレキシブルに、『じゃあ今日はトラヴェルソで。明日はモダン・フルートで』とかいうふうになったら一番いいですね。
 すべては音楽のため。音楽に辿り着くのに余計なものを取り払っていけたら、という思いで始めたのがTBPです」

 モダン・フルートで現代曲からユーミンまで異次元の演奏を聴かせてくれる上野だが、パリ音楽院留学時代には、ヤン・デ・ヴィンヌ教授に師事してフラウト・トラヴェルソも吹き始めた。その上野と東京芸大で同級生だった島根も、チェロとヴィオラ・ダ・ガンバの二刀流奏者だ。

島根「J.S.バッハの『マタイ受難曲』で、チェロとガンバを持ち替えて弾いたりしたことも何度かあります。パリ7区のエリック・サティ音楽院に留学しているあいだに、バロック・チェロとヴィオラ・ダ・ガンバを両方瞬時に弾き分けられるようスパルタ訓練を受けました(笑)。
なので普段は古楽の分野での仕事が多いのですが、『開いていかなきゃいけない』っていつも考えているんです。星矢君のように現代の楽器でバロックにアプローチしていく人と一緒にやっていくのは大事なことです」

上野「最近は両方やる演奏家が多いよね」

島根「そう。世界的に、両方できるっていうのもベーシックになりつつあるんじゃないかな。ヒストリカル・パフォーマンスを行うということが、モダン奏者にもとても重要なことだっていう流れに変わってきたと感じています。オリジナル楽器で現代曲を演奏する人たちも出てきていますし、古楽奏者が19〜20世紀の作品を研究して演奏したり、ロマン派の時代に編曲されたバッハを弾いてみたり。『バロック音楽は、初演時の再現をするのがいいんだ』っていうだけでは済まない時代になってきた。
 TBPはフレキシブルさがあり、今の流れにも一致するところがある団体なので、そういった自由度のある活動ができたらいいなと思っています」

東京バロックプレイヤーズのメンバー
左より:對馬佳祐(ヴァイオリン)、中田美穂(ヴィオラ)、桑生美千佳(チェンバロ)


J.S.バッハ、テレマンからフリードリヒ大王までドイツ・バロックの作品がずらり

 今回の3月のコンサートでは、18世紀のドイツ・バロック音楽界を俯瞰するようなプログラムを組んだ。J.S.バッハの「音楽の捧げもの」も演奏するが、しかし「大バッハ中心の選曲構成」と早合点すると、焦点が少しぼやけてしまうかもしれない。J.S.バッハ(1685〜1750)とゲオルク・フィリップ・テレマン(1681〜1767)というバロックの巨人たちとともに、ヨハン・ゴットリープ・ヤーニチュ(1708〜1762)、ヨハン・ゲオルク・ピゼンデル(1687〜1755)、カール・フリードリヒ・アーベル(1723〜1787)、ディートリヒ・ブクステフーデ(1637〜1707)、そして当時の音楽の庇護者だったフリードリヒ大王(フリードリヒ2世/1712〜1786)など、当時の仲間やライバルとして濃淡に関連のあった作曲家たちの作品が並ぶ。

上野「作曲家同士の関係を一晩の中に盛り込みました。そのあたりは当日プレトークなどもできたらなと思っているのですが、もちろん一曲一曲も素晴らしいのですけど、バラバラのものを組み合わせたわけではなくて、繋がりがある。その300年前のコミュニティを感じていただけるというのが、このコンサートの一番の価値かなと思います。まさに現代のわれわれと同じように、それぞれが繋がっていたと考えると面白いですよね」

島根「もし300年前にこのプログラムの演奏会を開いたら、ものすごく贅沢だと思います。J.S.バッハが中心になるならもっとバッハばかりだったと思うのですが、これだけいろいろな作品が聴けるというのは、いわば各地の名産品や珍味を集めたフルコースみたいなものですから」


ブクステフーデとテレマンも聞きもの

 2人が注目ポイントとして挙げてくれたのが、この中では半世紀ほど古い世代の作曲家であるブクステフーデ。今回島根は、このブクステフーデなどでチェロをヴィオラ・ダ・ガンバに持ち替えて二刀流を披露する。

島根「日本では演奏機会があまり多くないブクステフーデ。トリオ・ソナタ集は彼の主要作品なので、ヴィオラ・ダ・ガンバ奏者が取り上げていかないと、たぶんなかなか広がっていかないと思うんです(笑)。
 ブクステフーデは即興的に処理されていた部分を楽譜に書き記していくことに早い段階から取り組んでいた作曲家です。書いてあるとおりに弾けば音楽として素晴らしく奏でられるように楽譜を書いた最初の作曲家はJ.S.バッハだと、僕は思っているのですけど、バッハより前にすでにその方向を示していたのがブクステーフーデです。和声の緊張するところや、ちょっと超絶技巧的な見せ場みたいなところも楽譜に書いてある。もちろん演奏者が自分で考えて装飾を足してもいいけれども、楽譜のうえで十分に素晴らしい音楽を作っています」

 一方、TBPが毎回のように取り上げているのが、プログラムの最後に置かれたテレマン。存命中には、4歳若いJ.S.バッハやヘンデルを凌ぐ名声を博したという大作曲家だ。「歴史上最も多作の作曲家」としてギネスブックにも載っているだけあって、ありとあらゆる編成の作品を残しており、コンサートのプログラムによって編成が変幻自在のTBPでは出番が多くなる。

上野「前に一度、ヴァイオリン、オーボエ、フルートが2人ずつ出演するコンサートがあったのですが、全員で弾く曲をどうしようかというときに、やっぱりテレマンにはその編成の曲があるという(笑)。どんな環境、どんな編成にも対応しているって、ある意味、音楽の一番大事なところなんじゃないかなと思うんですよね。

 今回演奏する 『ターフェルムジーク(食卓の音楽)』 第2集第2曲の四重奏曲は、たぶん管楽器奏者が最も多く吹いているかもしれないぐらいの、すごく有名な作品です。テレマンがこれを本当に食卓のBGM用に作ったのかはわかりません。めちゃめちゃ商才に長けた人だったらしいので、タイトルを 『食卓の音楽』にすることで、難しい音楽という概念を取り払って、より多くの人に聴いてもらおうという意図があったんじゃないかとかとも思っています」

島根「テレマンはまさに『開いていく人』。王様のための音楽っていう時代背景の中で、いかに一般の聴衆の心をつかむ音楽を書くかということに取り組んでいたのだと思います。雑誌にソナタを1楽章ずつ連載して、1つ見て弾いたら結局全楽章弾きたくなるようになっていて、本を全部買わざるを得ない感じにしたりして」

上野「マージンを取られずに済むように、自分で予約者を募って楽譜を出版して。予約者は初版の楽譜に名前を載せてあげますよ、みたいな。現代でも普通にありそうですよね」

 時代は巡っているのだなと思う。20世紀後半のオリジナル楽器派によるアプローチは、19世紀以降に肥大化したバロック音楽の世界に、作品が生まれた当時の響きを取り戻した。その多彩な音色によって、18世紀の音楽は、本来持っていた豊かな表情とヴィヴィッドな色彩をまとってわれわれの前に現れたのだ。そして今度はTBPのように、楽器や奏法などの形にとらわれることなく、彼ら自身の新しいやり方でその姿をいっそう鮮明にしようとチャレンジする若い力が台頭してきた。おそらくはどちらも同等に正しいと言える2つのアプローチを、ともに目の前で比べながら楽しむことのできる21世紀のわたしたちは幸せだ。TBPがこれからどんな成果を見せてくれるのか、その活動がじわじわと注目を集めている。
取材・文:宮本 明


【Information】
東京バロックプレイヤーズ


東京公演
2021.3/15(月)19:00 王子ホール
大阪公演
2021.3/25(木)19:00 あいおい同和損保ザ・フェニックスホール

上野星矢(フルート)
島根朋史(チェロ/ヴィオラ・ダ・ガンバ)
對馬佳祐(ヴァイオリン)
中田美穂(ヴィオラ)
桑生美千佳(チェンバロ)

演目:
J.G.ヤーニチュ:室内ソナタ ト短調「おお、血と涙にまみれた御頭よ」
フリードリヒ大王:フルート・ソナタ ロ短調
J.S.バッハ:「音楽の捧げもの」BWV1079より「トリオソナタ」
J.G.ピゼンデル:無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ イ短調より「ジーグ」
C.F.アーベル: 無伴奏ヴィオラ・ダ・ガンバのための小品集より「アレグロ ニ短調」
D.ブクステフーデ:ヴァイオリン、ヴィオラ・ダ・ガンバ、チェンバロのためのトリオソナタ ニ短調
G.Ph.テレマン:「ターフェルムジーク(食卓の音楽)」第2集より第2曲「四重奏曲」ニ短調

問:株式会社目の眼03-6721-1152
https://www.facebook.com/TBP.since2016/