新しい時代にふさわしい超アグレッシブな選曲が実現!
昨年末に読売日本交響楽団が発表した新シーズン・ラインナップは、多くのコンサートファンを騒然とさせた。そこには、“2020年”を経た今だからこそ! という楽団の覚悟が伝わるアグレッシブな公演の数々が並び、例年以上の期待を抱かせてくれたのである。
まず5つのシリーズ構成を確認すると、各10回ずつの「定期演奏会」「名曲シリーズ」「土曜・日曜マチネーシリーズ」の三本柱に、3回の「大阪定期演奏会」、そして新たにミューザ川崎シンフォニーホールにて「川崎マチネーシリーズ」が4回開催される。
中心となるのはやはり常任指揮者セバスティアン・ヴァイグレで、4回の来日、8演目13回出演というハイペースで共演を重ねる。メイン曲目は交響曲が中心で、ブラームス第1番(6/14, 6/15)、チャイコフスキー第5番(6/19, 6/20, 6/22)、フランツ・シュミット第4番(6/29)、ショスタコーヴィチ第5番(8/23)、ベートーヴェン第5番(8/28, 8/29)、プロコフィエフ第5番(12/14)、シューマン第3番「ライン」(22.2/19, 2/20)と名曲がずらり。4つの「第5番」など、なにやら狙いがありそうだ。とはいえ、最大の注目は間違いなくR.シュトラウス《エレクトラ》(演奏会形式)である(22.2/10)。大管弦楽の強烈な音響で人間の本性を抉り出す傑作オペラだが、なぜか15年以上も日本で実演がなく、待望の演目だった。ヴァイグレ&読響は19年の東京二期会《サロメ》で精妙極まる名演を実現しており、より深化した響きによる《エレクトラ》を聴ける日が待ち遠しい。タイトルロールにエレーナ・パンクラトヴァ、その母親役に藤村実穂子ほか、名歌手たちの競演も聴きものだ。
他の指揮者も充実の布陣で、桂冠指揮者シルヴァン・カンブルランはデュティユーやヴァレーズ(4/6)、首席客演指揮者の山田和樹は10月と翌年3月に登場し、諸井三郎の第3交響曲(22.3/8)などを取り上げる。特別客演指揮者の小林研一郎は3演目5回の登壇で得意の名曲を熱く聴かせる。八面六臂の活躍を見せるクリエイティヴ・パートナー鈴木優人は4演目5回の共演(9月マチネーではオルガニストとしても登場)。他にもおなじみの下野竜也のほか、前回の共演が好評だったイラン・ヴォルコフ、ローター・ツァグロゼク、マキシム・パスカルらの再登場、注目のマリオ・ヴェンツァーゴとの初共演など、客演指揮者陣も見逃せない。「第九」の指揮はフランチェスコ・アンジェリコ。
特に耳目を集めているのは演目であろう。読響はこれまでも「定期」で知られざる作品を果敢に取り上げてきたが、新シーズンはその路線を拡大。ここでは詳細まで触れられないが、「定期」「名曲」のほぼ毎回で20世紀・現代の作曲家の名前が連なり、いわゆる名曲が中心となる「土日マチネー」でさえ見慣れない作曲家名がちらほら。どの公演も刺激的な体験になりそうだ。もちろん名曲もたっぷり用意されていて、シーズンを通して著名作品と新しい楽曲の化学反応を体感できる、興味の尽きないプランになっている。
また、三本柱の30回中28回はソリストとの共演が予定されていて、内外の名手や名匠たちの妙技を毎回のように体験できるのも読響ならでは。一方、合唱が加わるような大曲は「第九」と《エレクトラ》以外にはまったくないことにも注目したい。すなわち、予断を許さない状況下であることにしっかり向き合うことで生まれた、十分な実現性と“制限下でこそ、この演目を!”という意欲を兼備したラインナップと見るべきだろう。
読響がその矜持をもって用意した、新しい1年間のプログラム。どの公演も、その場を共有する者すべてにとって、この上なく意義深い時間が約束されている。
文:林 昌英
(ぶらあぼ2021年2月号より)
2021/22シーズン 年間会員券
2021.2/7(日)発売
問:読響チケットセンター0570-00-4390
https://yomikyo.or.jp
※2021/22シーズンの詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。