作曲家や時代の背景を映す調べが、今こそ心に響く
東京シティ・フィルの第341回定期演奏会は、モーツァルトの交響曲第31番「パリ」とショスタコーヴィチの交響曲第8番を組み合わせたプログラムで開催される。指揮は常任指揮者の高関健。当初、この公演ではヴェルディの「レクイエム」がとりあげられる予定だったが、新型コロナウイルス感染予防対策ガイドラインに従って、上記のように公演内容が変更された。ウイルス禍の現状を鑑みれば、ヴェルディ「レクイエム」のような大規模合唱作品が演奏困難であることはよく理解できる。
代わって演奏される両曲は対照的な性格を持っている。パリ旅行中に作曲されたモーツァルトの交響曲第31番「パリ」は溌溂とした生命力に満ち、管楽器の充実した書法が華やかな響きを生み出す。一方、ショスタコーヴィチの交響曲第8番は悲劇的な色彩の強い全5楽章からなる大作である。
同時に、両曲にレクイエム的な性格を見て取ることも可能だろう。モーツァルトは旅先のパリで同行した母親を亡くしている。モーツァルトのパリ旅行は悲しみと分かちがたく結びついている。ショスタコーヴィチの交響曲第8番はスターリングラード攻防戦のあった1943年の作品であり、戦争の悲劇や静謐な祈りを連想させずにはおかない。目下、ウイルスとの闘いを続ける私たちの心情に寄り添った、真摯な音楽体験がもたらされるにちがいない。
文:飯尾洋一
(ぶらあぼ2021年2月号より)
第341回 定期演奏会
2021.3/26(金)19:00 サントリーホール
問:東京シティ・フィル チケットサービス03-5624-4002
https://www.cityphil.jp