三浦一馬(バンドネオン)

新機軸のアンサンブルで生誕100年のピアソラと向きあう

C)Shigeto Imura

今年の記念年としてタンゴの革命児ピアソラの生誕100年は絶対におさえておきたいところ。現在ではオーケストラの定期演奏会で演奏されることも珍しくないほど、高い人気と評価は揺るぎない。しかし同時に彼の演奏活動の中心だったピアノ、バンドネオン、ヴァイオリン、ギター、コントラバスによる五重奏(キンテート)を核にした編成を聴かずに、ピアソラの音楽を深く理解することはできないだろう。本人の自作自演だけでなく、ぜひ生でお聴きいただきたいのがバンドネオン奏者・三浦一馬の主宰するグループだ。演奏に必要な楽譜を三浦自身が書き起こすことで、ピアソラの真髄に肉薄していくのが実に興味深い。

「こういう作業を夜な夜なやっているといろんなことが見えてきます。例えば、あるパッセージが他の録音とはあえて違う弾き方をしていたりすると、奏者目線でみると安全策をとってこう演奏したのかな? とか、演奏中のピアソラの心理状態まで分かるようになってくるんです」

三浦がピアソラに向かい合う姿勢は、能や歌舞伎、あるいは落語の名人の背中を見ながら学んでいく伝統芸能に近いのかもしれない。これほどまでにピアソラの本質と対峙した上で、敢えて三浦はキンテートに弦楽合奏を加えた東京グランド・ソロイスツという新たな編成を2017年に結成した。

「オーケストラの弦の音は魅力的ですけど、あまり大人数だとフットワークが重くなってしまう。あくまでもキンテートが核となって、その世界観を10人ほどの弦楽で拡張できればと思ったんです」

小編成のキンテートと大編成のオーケストラで分断されがちだったピアソラの2つの魅力を統合。作曲者本人も辿り着けなかった新たな境地を三浦は開拓してしまったのだ。生誕100年の現在も進行形で深化し続けているからこそ、ピアソラはいっときの流行ではなくレパートリーとして定着したのだろう。公演にむけて三浦の気合も充分だ。

「“ザ・ベスト”と銘打っていますが有名曲だけを並べたわけではないんです。お馴染み『リベルタンゴ』と肩を並べられると思える、隠れた名曲もお楽しみいただければ!」
取材・文:小室敬幸
(ぶらあぼ2021年2月号より)

*新型コロナウィルス感染症の感染拡大を鑑み、一部公演の中止・開演時間の変更が発表されております。
詳細は下記ウェブサイトでご確認ください。

ピアソラ生誕100年記念大型ツアー
東京グランド・ソロイスツ ピアソラ・ザ・ベスト
2021.3/13(土)19:00 大阪/ザ・シンフォニーホール
3/23(火)19:00 サントリーホール【中止】
問:日本コロムビア03-6895-9001
http://kazumamiura.com
※全国ツアーの詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。