稀有の逸材が魅せる協奏曲の最高傑作とデビューCD
2019年、権威あるミュンヘン国際音楽コンクールのチェロ部門で日本人初の優勝を果たし、一躍脚光を浴びた佐藤晴真。現在ベルリン芸術大学に在籍中だが、現況ゆえ戻れずにいるという。つまり今が彼の妙技に触れる絶好のチャンス。その中で注目されるのが、ドヴォルザークのチェロ協奏曲を弾く3月の「究極の協奏曲コンサート」だ。
技巧と音楽性が求められるドヴォコン
曲はこのジャンルの最高峰。当然彼も馴染みは深い。
「早いうちから学び、ここ1年は複数回演奏してもいますが、交響曲的な壮大さをいかに表現するかが毎回の課題です。それにチェロ協奏曲の中でも難しさはトップレベル。技巧面と音楽表現の双方が最大限に求められますし、巨匠たちの名演ひしめく中で自分の考えを打ち出すという難題もありますので、常に心して取り組みたいと思っています」
ちなみに巨匠の中では「フルニエの演奏が好き」との由。もちろん音楽自体も魅力十分だ。
「ドヴォルザークは日本人にとって近しい作曲家。それは懐かしいメロディや(五音)音階などが要因でしょう。外国語には“懐かしむ”という動詞がなかったりもしますし、そうした日本人特有の感覚を呼び起こしてくれる音楽は稀だと思います」
今回は秋山和慶指揮の読響との共演。
「秋山先生とは2度目の共演で、今作のような規模の大きな音楽を得意とされていますので、いろいろなことを学んでいきたい。読響も8月にやはりドヴォルザークで共演させていただき、音の圧が凄い大スケールの響きに圧倒されました。この曲はそうしたオケとのせめぎ合いが必要ですし、2度目の今回はさらにギリギリを攻められると思うので楽しみです」
なお本公演の後半は、辻井伸行がソロを弾くチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番。「通常よりも濃い贅沢なコンサート」でもある。
ドイツ・グラモフォンからデビュー!
また佐藤は11月にデビュー・アルバム『The Senses〜ブラームス作品集〜』を名門ドイツ・グラモフォン(ユニバーサル ミュージック)からリリースした。チェロ・ソナタ2曲の間に歌曲(編曲)を4曲挟んだ構成だが、実は「歌曲がスタートになった」という。
「19年12月のデビュー・リサイタルにおけるブラームスの歌曲の演奏をきっかけにお話をいただき、まずそれらは絶対に入れたい、ならば今留学しているドイツの大作曲家ブラームスにフォーカスした一枚を作ろうということになりました。3〜4分の中に各々のストーリーがある歌曲は、1曲の濃さの点で大曲よりも魅力的。このCDを作るにあたって歌手の方にも聴いていただきましたが、子音の出し方や歌詞の意味を捉えながら楽器で表現することの難しさを痛感し、それが一番の醍醐味でもあると感じました」
ブラームスの音楽自体、そしてソナタ2曲の魅力も尽きない。
「ここまで素朴な人間性や愛情が音楽自体に滲み出ている作曲家は珍しく、私も大好きです。また最も人の声に近いと言われるチェロの低音域を上手に使ってくれる作曲家。私も声が低いので親近感を感じます。さらにソナタは1番と2番のキャラクターがまったく違っていて、初期の1番には年老いた感じや秀でた音楽性があり、後期の2番には逆に生命力があって、そこに愛や人間味が伴っています」
「室内楽が好きで、ソリスト的な部分の足りなさが課題」「今後はバロック音楽も勉強したい」と謙虚に話し、「ジブリ映画、カメラ、キャンプ」と意外(?)な趣味を語る佐藤晴真。この真摯な俊才の活動にこれからも熱い視線を送りたい。
取材・文:柴田克彦
(ぶらあぼ2021年1月号より)
辻井伸行 × 佐藤晴真 究極の協奏曲コンサート
2021.3/29(月)19:00 栃木県総合文化センター
3/30(火)14:00 大宮ソニックシティ
3/31(水)14:00 府中の森芸術劇場 どりーむホール
問:チケットスペース03-3234-9999
https://www.ints.co.jp/kyuukyoku2021.html
CD『The Senses 〜ブラームス作品集〜』
ユニバーサル ミュージック
UCCG-1879 ¥3000+税