横須賀芸術劇場リサイタル・シリーズ60 森 麻季(ソプラノ) & 福井 敬(テノール) ゴールデン・デュオ・リサイタル

煌めく声による“王道アリア・シャワー”を浴びる幸せ


 偉大な声のシャワーを浴びると問答無用に心地よい。そういう機会はしばらく遠ざかっていたが、やっと戻りつつある。最たるものの一つがこのリサイタルだろう。

 ソプラノの森麻季とテノールの福井敬。日本を代表する2人の歌手については、もはや説明不要と思うが、念のために。森はバロックから現代作品まで、透明な美声をムラなく響かせ、華麗な技巧的歌唱も難なくこなす。内外での輝かしいキャリアは伊達ではなく、この秋もヘンデルのオペラ《リナルド》で、声の美しさと様式感が両立した圧倒的な印象を残したばかりだ。一方の福井は、リリックな役からドラマティックな役まで驚異的なレパートリーを誇り、この人抜きには、日本におけるオペラ上演は成立しないと言っても過言ではない。やはりこの秋の《トゥーランドット》カラフ役でも、大きな喝采をさらった。

 そんな2人が歌うのが、まさに王道のアリアばかりなのだ。森が《ノルマ》から〈清らかな女神よ〉を歌えば、福井が《トスカ》から〈妙なる調和〉を。森が《ラ・ボエーム》のムゼッタのワルツを歌えば、福井は《トゥーランドット》から〈誰も寝てはならぬ〉。

 名アリアこそ偉大な声で聴かなければ、「名アリア」たるゆえんが伝わらないものだ。その点において理想的なリサイタルだが、加えて、タイプの違うスター2人による思わぬ化学変化も期待できる。歌手の生理を知り尽くした山岸茂人のピアノも得て、幸福な2時間が約束されている。
文:香原斗志
(ぶらあぼ2021年1月号より)

2020.12/26(土)15:00 よこすか芸術劇場
問:横須賀芸術劇場046-823-9999 
https://www.yokosuka-arts.or.jp