服部百音(ヴァイオリン)

緻密なアプローチを積み重ねて名曲と向き合うステージ

C)Chihoko Ishii
 服部百音は、10歳の時リピンスキ・ヴィエニャフスキ国際ヴァイオリン・コンクールのジュニア部門で史上最年少優勝を果たし、国内外の一流オーケストラとも共演を重ねるなど、日本の若手演奏家の中で今最も大きな期待が寄せられている一人である。リサイタルを前に、プログラム各曲に込めた思いや聴きどころを聞いた。

 冒頭を飾るのはショスタコーヴィチ「10の前奏曲」(24の前奏曲 op.34より)。
「大好きな作曲家です。第1番から10番までそれぞれ1、2分くらいと短くて個性豊かで、小さな幕の内弁当みたい。ショスタコーヴィチは難しいという方にも気軽に楽しんでいただけます」

 フランクのヴァイオリン・ソナタは今回が初めての挑戦だという。
「これまでたくさんの名演奏を自発的なレッスンのように聴いてきました。その影響を脱して何が何でも自分を出すと奇をてらう方向にいくので、素晴らしいと思った点を肥やしにして、自分の中で消化したものを聴いていただけたらうれしいです。ヴァイオリン以上にピアノが重要なので、独特で迫力ある音の波に乗せていただける江口玲先生との共演が本当に楽しみです」

 シマノフスキ「アレトゥーザの泉」は、これまでも何度かリサイタルでとりあげてきた。
「水が流れている音とか、泉の風景とか神秘的で非現実的な美しさを追求していきたいです。プログラムの間に入るとすごくきれいです」

 チャイコフスキー「憂鬱なセレナード」については、「演奏会で弾くのは初めて。ショーソンの『詩曲』のように深い曲で、重くのしかかってくる悲しみがあり、それでいて美しく心を動かされます。チャイコフスキーが好きで、この作品もとても親近感を覚えます」と語る。

 サン=サーンス「ハバネラ」も初めて披露する作品。
「これまでロシアの作曲家に傾倒してきました。フランスの作曲家は好きですが苦手意識があり、今回自粛期間中にレパートリーに加えようと練習しました。フランスの作品は感覚的ですが、微妙なニュアンスや表現は技術で学ぶというか、自分なりにつかめてきた気がします」

 シマノフスキ「ノクターンとタランテラ」は「特有の和声感があります。静かに始まって、最後は踊り出したくなるようなタランテラ舞曲で終わります」と話す。そして、プログラムを締めるのは超絶技巧で盛り上がるラヴェル「ツィガーヌ」。
「毎回お客様にすごく喜んでいただける曲で、次はぜひ違うアプローチで聴かせてくださいと言われます」

 最後に、作品とどう向き合うのか聞いてみた。
「楽譜にある指示はざっくりとしているので、エスプレッシーヴォひとつにしても、ただ気持ちを込めて弾けばいいというものではなく、どの音をどういうニュアンスで弾くか、ピアノ譜も見ながら考えます。フレーズの山をどこに置き、そこに至る前後の位置づけや表情づけをどう構築するのか、感覚ではなく緻密に一つひとつ積み上げていきます。ミクロの単位で詰めていくと切り貼りのように不自然になるので、全体のバランスを考えます。こうしたことは師匠のザハール・ブロン先生から教わりました」

 「コロナ禍でまだ希望が見いだせない中、大好きな曲ばかりで構成したリサイタルが実現できることが奇跡のようで、そのことに胸が熱くなっています」と公演への強い思いを語る服部百音。成功を祈りたい。
取材・文:長谷川京介
(ぶらあぼ2020年12月号より)

服部百音 ヴァイオリン・リサイタル
2020.12/14(月)19:00 サントリーホール ブルーローズ(小)
問:チケットスペース03-3234-9999 
https://mone-hattori.com