小林研一郎(指揮) 日本フィルハーモニー交響楽団

渾身のタクトで贈るモーツァルトとベートーヴェン


 2020年も秋に入り、各オーケストラは、特殊な状況だからこそ取り組みたいことを見出し、楽団の成長かつ聴衆の新たな楽しみ方につなげている。日本フィルにとって、そのキーワードは「モーツァルト」かもしれない。

 9月17日の「特別演奏会」では、小林研一郎の指揮によるオール・モーツァルト・プログラム、しかも楽団の首席奏者たちをソリストにたてて、クラリネット、フルートとハープ、オーボエの各協奏曲を抜粋して聴かせるという、珍しい機会が実現した。今こそじっくりモーツァルトに向き合い直す好機、と小林と楽団がとらえたからこその、むしろ新鮮な取り組みとなった。しかも、団員の名手がソロに立つことで、その力量を知らしめるばかりか、インティメイトな雰囲気で、楽団内の連携、聴衆とのつながりを深めることにもなったという。

 11月の「コバケン・ワールド」も、前半はモーツァルト。《フィガロの結婚》序曲に続き、9月の演奏会で唯一紹介されていなかった木管楽器、ファゴットの協奏曲が取り上げられる。ソリストは同楽団首席の鈴木一志。木管セクションの土台であり大黒柱と言うべき存在で、ソロの場面では常に印象に残る表現を聴かせてくれる名手だ。今回は協奏曲の全楽章ということで、成熟した名技を楽しみにしたい。そして、公演メインは、演奏の度に会場を興奮の渦に巻き込んでしまう、マエストロ最高のレパートリーのひとつ、ベートーヴェンの交響曲第7番。熱狂的な名曲で、今年の憂鬱を吹き飛ばすような時間を過ごしたい。
文:林 昌英
(ぶらあぼ2020年11月号より)

コバケン・ワールドVol.26
2020.11/8(日)14:00 東京芸術劇場コンサートホール
問:日本フィル・サービスセンター03-5378-5911 
https://www.japanphil.or.jp