アーティストメッセージ(67)〜ピエタリ・インキネン(指揮)

 私たちが経験した隔離生活、一人で過ごすというこの奇妙な時間は、世界中の人々全員が共有してきました。家で一人でいる、もしくは近くにいる身内・家族と過ごすだけ、それを全世界の人々がしているという、非常に珍しい瞬間です。厳しい状況ですが、私たちが皆同じ状況にあり、共通の目的――私たちの社会が回復し、再び強くなる――ためにしている、ということを知ることで、多少の安心感があります。

 多くの国で演奏会が中止となり、日本フィルだけでも夏までに70以上の公演が中止となりました。私も4月、6月の日本フィルの定期演奏会で指揮する予定でしたがそれもかないませんでした。ベートーヴェン生誕250年企画も含まれます。この大変な時期を乗り越えた後には、皆さまに私たちのベートーヴェンを聴いていただければと思っております。

 この自粛生活の中で、ライブコンサートに代わるものはありませんが、多くの音源を聴くことができたのは幸せでした。昔のLPからインターネットのライブストリーミング、SpotifyやYouTubeなどで昔の録音を調べたり、去年のお気に入りのコンサートを再訪したりすることができます。この豊富な音源・映像が、人々に、一日も早く直接向きあうことのできる、ライブコンサートを待ち望む気持ちの糧となることを願っています。

 私は幸運なことに、現在住まいのある美しいスイスにて隔離生活を送っています。この危機は、私に思いもよらなかった自由な時間を与えてくれました。キッチンで新しいレシピを試したり、マウンテンバイクという新しい趣味も発見しました(写真参照)。すばらしい形で家の周りの山々を見ることができ、体力的にも精神的にも厳しい指揮者という役割を持つ私をさらに鍛えるのに役立っています。皆さんの前でマーラーやブルックナー、ワーグナーなどの大規模な作品を指揮に戻ってくるとき、私も体力が必要になるでしょう。皆さんもこの予期せぬ時期、家で音楽を体験したり、新しい前向きなことを見つけられていることを願っています。

 プラハ響では、来週からお客様を1000名まで迎えた公演がスタートしようとしています。ザールブリュッケンのドイツ放送響でも今週、リハーサルが始まりました。人数も減らし、距離をとった状態ではありますが。
 日本フィルも演奏会を再開しはじめています。私も1日もはやく日本に戻り、皆さまと日本フィルの公演でお会いできることを強く願っています。

ピエタリ・インキネン