音楽の歴史の流れをエチュードで捉える
フランスものや現代音楽をはじめ、幅広いレパートリーを優れた感性で弾きこなす児玉桃。鳥の24時間を描いたメシアンの「ニワムシクイ」に、ラヴェル、武満を合わせたECMの新録音では、20世紀に生まれた輝かしい作品たちをコントラスト鮮やかに描き分けている。
エチュードをテーマとした12月のリサイタルも、彼女の本領が発揮される内容だ。
「“エチュード”という言葉は、とても興味深いものです。運指のための練習曲であるのはもちろん、たとえばドビュッシーの『3度のための練習曲』であれば、3度の音程でつくられる音色でどんな世界を創り出すかという、作曲に対する練習曲の意味もあるでしょう。演奏上の解釈にも大きな可能性があります。難しいということを忘れるほどに練習して、技術的困難を越えたところにあるものを捉え、表現しなくてはいけません」
エチュードというものを軸に、音楽の歴史の流れを捉えたいという意図もある。
「ショパンのエチュードがドビュッシーに影響を与えていることはよく知られています。今回は冒頭にバッハのクラヴィーア練習曲集第2巻の『イタリア風協奏曲』を置くことで、そうした芸術性の高いエチュードがもっと古くから存在していたことを示したいと考えました」
そこから現代作品へと移る。細川俊夫のエチュードⅠ〜Ⅵのうち、Ⅲ〜Ⅵは今回が日本初演となる(世界初演は11月ルツェルン音楽祭)。実はインタビューを行った9月下旬の時点で、まだ彼女の手元に楽譜は届いていなかった。
「細川さんの作品は何度か初演させていただいていますが、彼の場合そんなにぎりぎりになることはありません。演奏家に優しいですね(笑)。すでに初演されているエチュードⅠ、Ⅱは点や線をモチーフにした、カリグラフィーのようなすばらしい作品。続きを弾くのが楽しみです」
新作に取り組むことで、クラシカルなレパートリーに向き合う際の意識も変わったという。
「すでに聴いて知っている作品でも、一度すべてブランクにして改めて楽譜に向き合うことが理想だと、より強く思うようになりました」
そして後半のドビュッシーへ。現代から再び20世紀のエチュードに戻ることになる。
「それによって聴こえ方が違うものになってくると思います。時代を先取りしたドビュッシーのハーモニー、繊細なユーモアを感じていただけたら」
音楽とは、歴史の流れを汲み、その時代を反映するもの。だからこそ、現代に生きる自分が現代作品を演奏することは大切なのだと児玉は言う。彼女が提示する一夜の知性あふれるプログラムは、聴く者に新たな発見をもたらしてくれるだろう。
取材・文:高坂はる香
(ぶらあぼ2013年12月号から)
★12月6日(金)
・東京オペラシティ コンサートホール
問 東京オペラシティチケットセンター
03-5353-9999
http://www.operacity.jp