自身のキャリアを“和”の美しさに捧げて
あらためて書くまでもないが、日本語には独特のリズムや抑揚があり、言葉一つひとつの深みも伝えてくれる「歌」の数々は日本語の美感を教えてくれる。
多彩なオペラ公演やコンサートなどで活躍する小林沙羅は、黛まどか&千住明によるオペラ《万葉集》や、人気漫画『ガラスの仮面』から生まれたオペラ《紅天女》に出演するなど、日本語で歌う機会を大切にしているソプラノ歌手だといえるだろう。その美的感覚をひとつの形にして聴かせてくれるのが昨年11月にリリースされたCD『日本の詩』。浜離宮朝日ホールで行われる同名のリサイタル(3月12日からの延期公演)は、コンサートホールという空間で“言葉と歌の繊細な波動”を肌で感じられる至高の時間だ。共演は河野紘子(ピアノ)、見澤太基(尺八)、澤村祐司(箏)。
彼女の曾祖父である詩人、林柳波(りゅうは)の詩に付曲した歌や、谷川俊太郎に委嘱して生まれた詩へ小林自身が曲を付けた歌をはじめ、〈この道〉〈赤とんぼ〉〈荒城の月〉といった誰もが口ずさめる名作、小林が東京藝大時代から所属しているグループ「VOICE SPACE」の盟友、中村裕美が『智恵子抄』の一編に付曲した〈或る夜のこころ〉、さらには多くの歌手が愛唱する武満徹のソングなど、明治から令和に至る日本歌曲の流れを俯瞰するようなラインナップは実に魅力的。音楽として、言葉として、メッセージとして、特にオペラなどを楽しむクラシック音楽ファンには発見に満ちたリサイタルになるだろう。
文:オヤマダアツシ
(ぶらあぼ2020年6月号より)
2020.8/10(月・祝)14:00 浜離宮朝日ホール
問:ジャパン・アーツぴあ0570-00-1212
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