佐渡 裕(指揮)

優れた歌手たちが揃ってこそ、アンサンブル・オペラとしての《ラ・ボエーム》を上演できるのです

写真提供:兵庫県立芸術文化センター 
撮影:飯島 隆

 兵庫県立芸術文化センター、毎夏恒例の佐渡裕芸術監督プロデュースオペラ。今回はプッチーニの人気作《ラ・ボエーム》を取り上げる。2020年は兵庫県立芸術文化センター開館15周年にあたり、佐渡もいつにも増して意欲的。オペラへの意気込みなど語った。

「阪神・淡路大震災後25年を迎え、開館15年でオペラの経験の蓄積もできました。昨年はバーンスタインの《オン・ザ・タウン》で東京公演も行い好評でしたね」

 確かにオペラ公演で、毎回8〜12回上演というのは画期的なことであり、ミュージカル《オン・ザ・タウン》に限らず、兵庫から全国に発信する意義は大きい。
「オペラは我々の看板商品ですし、兵庫芸術文化センター管弦楽団、ホールのスタッフ、そして聴きに来る皆さんの全体が一つのアンサンブルとなって作り上げています。それが誇りとなっている。地域の皆さんの“心の広場”であって欲しいと願っているのです」

 プッチーニは《蝶々夫人》(2006)、《トスカ》(2012)に続いて、同ホールでは3作目となる。
「《ラ・ボエーム》を指揮するのは初めてですが、パリには17年間住んだ経験があるんです。オペラの舞台となる下町カルチエ・ラタンの屋根裏部屋にも4年間住んで、街の雰囲気はよくわかっています。若く未来に夢を抱く芸術家仲間4人は、いわば吉本興業の売れない芸人さんのようなもの。主人公の詩人ロドルフォとお針子ミミの恋を中心に青春群像が描かれるわけですが、第2幕の賑やかなクリスマスや第3幕の寒い冬のパリといった情景描写、その場の温度、登場人物の体調、ミミの病気の具合まで、プッチーニは見事に表現している。そこが多くの人の共感を得られるところだと思います」

 歌唱陣は、イタリアのミラノ・スカラ座アカデミー出身者をオーディションで厳選した優秀な若手歌手を揃え、日本人の実力者たちとのダブルキャスト。日本人組を紹介すると、ミミは人気のソプラノ、砂川涼子。
「砂川さんは藤原歌劇団でミミを2回ほど歌われていますが、兵庫では初めて。役柄としては控えめなイメージがありますが、情熱とパワーが求められるとのこと。砂川さん自身の感性に期待したいですね」

 兵庫初登場の笛田博昭(ロドルフォ)はイタリア・オペラを得意とし、今や日本を代表するテノールの一人。平野和(コッリーネ)はウィーン・フォルクスオーパーで大活躍の若手で、佐渡ともウィーンで親しい関係にある。髙田智宏(マルチェッロ)はドイツで活躍し、「兵庫のオペラには何度も出演していて常にプロダクション・リーダーになってくれている」と信頼を寄せる。
「優れた歌手が揃ってこそ、アンサンブル・オペラとしての《ラ・ボエーム》を作り上げることができると思う」

 演出はダンテ・フェレッティが担当する。
「イタリア人の彼と仕事をするのは初めてですが、映画の美術ディレクターとしても知られていて、映画『アビエイター』ではアカデミー賞も受賞しているんですよ。彼は映画的観点からイメージを膨らませる人。今回は、若者たちの住まいが屋根裏部屋でなく、船の上です。船はどこにでも行ける自由の象徴であるとともに、若者たちの“秘密基地”なのだそうです」

 長年の“パートナー”である兵庫芸術文化センター管弦楽団の指揮については。
 「響きもまろやかになり、無理なく豊かな音が出せるようになってきましたね。メンバーたちの交代はあるとはいえ、ホールに見合ったサウンド作りができるようになってきました。それは卒業生たちの一流オーケストラでの活躍ぶりにもよく表れている」という。

 今夏の《ラ・ボエーム》は歌手陣、演出、舞台装置、衣裳など見どころ満載で期待は膨らむばかり。それらを纏め上げる佐渡の円熟の指揮ぶりが、何よりも楽しみである。
取材・文:横原千史
(ぶらあぼ2020年3月号より)


Profile

京都市立芸術大学卒業。故レナード・バーンスタイン、小澤征爾らに師事。1989年ブザンソン指揮者コンクール優勝。パリ管弦楽団、ケルンWDR交響楽団、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団等、欧州の一流オーケストラに多数客演。2015年よりオーストリアのトーンキュンストラー管弦楽団音楽監督を務めている。国内では兵庫県立芸術文化センター芸術監督、シエナ・ウインド・オーケストラ首席指揮者。

Information
兵庫県立芸術文化センター開館15周年記念事業 佐渡裕芸術監督プロデュースオペラ2020
歌劇《ラ・ボエーム》(全4幕/イタリア語上演・日本語字幕付/新制作)

2020.7/24(金・祝)〜7/26(日)、7/28(火)〜7/30(木)、8/1(土)、8/2(日)
各日14:00 兵庫県立芸術文化センター

指揮:佐渡 裕 
演出・装置・衣裳:ダンテ・フェレッティ
管弦楽:兵庫芸術文化センター管弦楽団
合唱:ひょうごプロデュースオペラ合唱団、ひょうご「ラ・ボエーム」合唱団、ひょうごプロデュースオペラ児童合唱団

出演
ミミ:フランチェスカ・マンツォ(7/24,7/26,7/29,8/1) 砂川涼子(7/25,7/28,7/30,8/2)
ロドルフォ:リッカルド・デッラ・シュッカ(7/24,7/26,7/29,8/1) 笛田博昭(7/25,7/28,7/30,8/2)
ムゼッタ:エヴァ・トラーチュ(7/24,7/26,7/29,8/1) ソフィア・ムケドリシュヴィリ(7/25,7/28,7/30,8/2)
マルチェッロ:グスターボ・カスティーリョ(7/24,7/26,7/29,8/1) 髙田智宏(7/25,7/28,7/30,8/2)
ショナール:パオロ・イングラショッタ(7/24,7/26,7/29,8/1) 町英和(7/25,7/28,7/30,8/2)
コッリーネ:エウゲニオ・ディ・リエート(7/24,7/26,7/29,8/1) 平野和(7/25,7/28,7/30,8/2)
ベノア/アルチンドーロ:ロッコ・カヴァッルッツィ(7/24,7/26,7/29,8/1) 片桐直樹(7/25,7/28,7/30,8/2)
パルピニョール:清原邦仁(7/24,7/26,7/29,8/1) 水口健次(7/25,7/28,7/30,8/2)

問:芸術文化センターチケットオフィス0798-68-0255
http://www.gcenter-hyogo.jp/boheme/

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