新国立劇場 2020/21シーズンラインアップを発表

 新国立劇場は1月8日、2020/21シーズンラインアップを発表した。登壇者は大野和士・オペラ芸術監督、吉田都・次期舞踊芸術監督、小川絵梨子・演劇芸術監督。大野、小川両監督は3シーズン目、20年9月1日から芸術監督に就任する吉田都・次期監督(任期は24年までの4年)は初のシーズンとなる。
(2020.1/8 新国立劇場 Photo:J.Otsuka/Tokyo MDE)

左より:小川絵梨子、大野和士、吉田 都

 オペラ部門は新制作となるブリテン《夏の夜の夢》、藤倉大《アルマゲドンの夢》(世界初演)、ダブルビル《夜鳴きうぐいす/イオランタ》、ビゼー《カルメン》を含む10演目を上演。うち大野は2演目を指揮する。

【オペラ】
《新制作》
●ブリテン《夏の夜の夢》

(20年10月、指揮:マーティン・ブラビンス、演出:デイヴィッド・マクヴィカー)
●藤倉大《アルマゲドンの夢》
(20年11月、指揮:大野和士、演出:リディア・シュタイアー)
●ダブルビル《夜鳴きうぐいす/イオランタ》
(21年4月、指揮:アンドリー・ユルケヴィチ、演出:ヤニス・コッコス)
●ビゼー《カルメン》
(21年7月、指揮:大野和士、演出:アレックス・オリエ)

《レパートリー》
●《こうもり》
(20年11月、指揮:クリストファー・フランクリン、演出:ハインツ・ツェドニク)
●《トスカ》(21年1月、指揮:ダニエレ・カッレガーリ、演出:アントネッロ・マダウ=ディアツ)
●《フィガロの結婚》(21年2月、指揮:エヴェリーノ・ピド、演出:アンドレアス・ホモキ)
●楽劇《ニーベルングの指環》第1日《ワルキューレ》(21年3月、指揮:飯守泰次郎、演出:ゲッツ・フリードリヒ)
●《ルチア》(21年4月、指揮:スペランツァ・スカップッチ、演出:ジャン=ルイ・グリンダ)
●《ドン・カルロ》(21年5月、指揮:パオロ・カリニャーニ、演出・美術:マルコ・アルトゥーロ・マレッリ)

大野和士・オペラ芸術監督

 大野が第1シーズンにあたり掲げた目標のひとつである、1シーズンおきに日本を代表する作曲家に新作オペラを委嘱する「日本人作曲家委嘱作品シリーズ」として、藤倉大《アルマゲドンの夢》を世界初演する。大野が「私たちの未来に問いかける作品にしてほしいと藤倉さんに3年前に委嘱」したもので、H.G.ウェルズのSF短編『世界最終戦争の夢』にもとづいたオペラ。すでにオーケストラスコアができあがっているとのことで、「舞踏会のシーンのワルツは、藤倉さんにとって初となるもので、作曲家自身『まさかこんなことになるとは!』と(笑)。そうした意味でも新たな展開が切り開かれた」と語る。演出は18年ザルツブルク音楽祭での《魔笛》で評判をとったアメリカの女性演出家リディア・シュタイアー。

 新制作にあたり20世紀のオペラも紹介したいと語る大野は、「20世紀の作品というとなんとなく敷居の高いものととらえられがち。そこでまずは喜劇、誰でも楽しめるものを」と考え、シェイクスピアを原作とする《夏の夜の夢》の上演を決めた。04年にモネ劇場で初演されたデイヴィッド・マクヴィカー演出によるもので、舞台一面に森をめぐらしたかのような夢幻の世界で繰り広げられるいたずら物語。物語を牽引するオーベロン役には藤木大地を起用した。指揮はイングリッシュ・ナショナル・オペラ音楽監督でブリテンを得意とするマーティン・ブラビンス。

 目標の二つ目として掲げた「2つの1幕物オペラ(通称ダブルビル)の新制作と、バロック・オペラの新制作を1年おきに行う」という趣旨にあたるのが《夜鳴きうぐいす/イオランタ》。ストラヴィンスキーとチャイコフスキーの2作品で、ロシアものレパートリーの充実という意味も持たせた。昨年、オペラ研修所試演会の《イオランタ》でも演出を担当したヤニス・コッコスが両作品を演出する。夜鳴きうぐいす役に、19年《ドン・パスクワーレ》で高く評価されたハスミック・トロシャン。

 昨年上演の《トゥーランドット》で協働した演出のアレックス・オリエを迎えての《カルメン》については「室内楽的な作品でもあることから、密室空間を使ってドン・ホセとカルメンの内面を描くということで、《トゥーランドット》とは対照的なものになるのでは」と期待を寄せた。 

 再演では、新国立劇場がモンテカルロ歌劇場と共同制作した《ルチア》が、スペインのバレンシア・ソフィア王妃芸術宮殿、モンテカルロでの上演を経て新国立劇場に帰ってくる(タイトルロールはイリーナ・ルング)ほか、飯守泰次郎・前オペラ芸術監督と世界トップレベルの錚々たるワーグナー歌いが集結した《ワルキューレ》に注目が集まる。

吉田 都・次期舞踊芸術監督

 吉田都のもと初のシーズンを迎えるバレエ部門は、バレエ6演目、ダンス3演目を上演。うち新制作は3演目4作品。
 吉田は芸術監督就任と新シーズンに向け、次のように抱負を語った。
「20年以上にわたって劇場が積み上げてきたレパートリーは大事にしつつ、新たなチャレンジをしていきたい。1年目はトップレベルの維持のためにも必要な古典作品を中心に、難しい技術的なことはもちろんのこと、日本人が苦手とされる表現をさらに磨く。
 世界的にコンテンポラリーの比重が大きくなり、古典と両方を踊れるダンサーが求められている。比較的まだ歴史が浅い英国ロイヤル・バレエ団が世界3大バレエとまで言われるようになったのは、優秀な振付家を育て、すばらしい作品を創り、さらにそれが各国で上演されるようになったから。新国立劇場でも世界に発信できるような作品が創りたい。
 本場フランスを超えるバレエ人口40万人をかかえる日本では、まだまだお客様の開拓ができると思っている。いろいろな角度から未来のお客様を取り込めるような試みをしていきたい。
 ダンサーを取り巻く環境は、世界から見てもまだまだ日本は遅れている。踊りだけに集中できる環境作りのためにもバレエ団一丸となって、また観たいと思ってもらえるような作品作り、舞台作りを進めていかなければと考えている」


【バレエ】
●『白鳥の湖』(新制作)
(20年10月〜11月、振付:ピーター・ライト)
●『くるみ割り人形』(20年12月、振付:ウエイン・イーグリング)
●ニューイヤー・バレエ(21年1月)
 『パキータ』『デュオ・コンチェルタント(新制作)』『ペンギン・カフェ』
●吉田都セレクション(21年2月)
『ファイヴ・タンゴ(新制作)』『A Million Kisses to my Skin(新制作)』『テーマとヴァリエーション』
●『コッペリア』(21年5月、振付:ローラン・プティ)
●『ライモンダ』(21年6月、振付:マリウス・プティパ、改訂振付:牧阿佐美)

【ダンス】
●中村恩恵×首藤康之×新国立劇場バレエ団『Shakespeare THE SONNETS』
(20年11月、中劇場)
●ダンス・コンサート『舞姫と牧神たちの午後 2021』(21年3月、小劇場)
●Co.山田うん『オバケッタ』(21年7月、小劇場)

 ピーター・ライト版『白鳥の湖』を新シーズンのオープニングに選んだ理由について吉田は、「キャラクターがハッキリしていて、お客様にもわかりやすい」と説明。「個々のダンサーの感情が見えにくいところ、ピーターさんの振付だと、たとえば4幕、コール・ドの白鳥たちが悪魔ロットバルトに向かっていくという意思が見える。ダンサーたちも演じ甲斐がある。重厚な衣裳やセットにも注目いただきたい」と語った。
 ニューイヤー・バレエで踊られる『デュオ・コンチェルタント』(振付:ジョージ・バランシン)は、舞台上で演奏されるストラヴィンスキーのヴァイオリンとピアノのための「協奏的二重奏曲」にあわせ、ひと組の男女が踊る逸品。
 吉田都セレクションの『ファイヴ・タンゴ』(振付:ハンス・ファン・マーネン)は「古い作品ではあるけれども、最近ヨーロッパでよく上演されている。ピアソラの音楽を使った、ちょっと大人な作品でいつもと違った一面をお見せできるのではないか」。バッハのピアノ協奏曲に振り付けた『A Million Kisses to my Skin』(振付:デヴィッド・ドウソン)は、「音楽を視覚化した、バランシン的でありながらオフバランスを多用するなど、どこかフォーサイスを想わせる。振付のドウソンさんが『本能的な踊り』と語るように、ダンサーたちの殻を破るようなチャレンジングな作品」として選んだが、「現代に活躍する振付家と一緒に作品を創ることで、バレエ団にとって刺激にもなるだろう」と、今後の優秀な振付家の発掘、育成にあらためて意欲を見せた。


●大野和士オペラ芸術監督による2020/2021シーズン演目説明会

2020.2/26(水)12:00開始 (13:30頃終了予定)
会場:オペラパレス客席

●吉田都 次期舞踊芸術監督による2020/2021シーズン演目説明会
2020.2/29(土) バレエ『マノン』公演終了後(17:00頃開始、18:00頃終了予定)
会場:オペラパレス客席
入場無料/自由席 

新国立劇場 
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オペラ 2020/2021シーズンラインアップ 
https://www.nntt.jac.go.jp/opera/news/detail/6_016639.html
バレエ&ダンス 2020/2021シーズンラインアップ 
https://www.nntt.jac.go.jp/ballet/news/detail/26_016638.html
演劇 2020/2021シーズンラインアップ 
https://www.nntt.jac.go.jp/play/news/detail/13_016637.html