尾高忠明(指揮)

満を持してブルックナーの3番に挑む

C)Martin Richardson
 この7月末に病気休養から復帰後、8月にはBBCプロムスの32回目(!)の出演で英国に渡るなど、順調な活動を続ける尾高忠明。来る1月には大阪フィルの東京定期演奏会を指揮する。

 2018年から音楽監督を務める大阪フィルとのコンビは、幾多の公演で高い評価を獲得。特に19年の合唱作品と交響曲を組み合わせた「ブラームス・チクルス」は大反響を呼んでいる。

「今は、近年多く加わった若い優秀な奏者と経験豊かな奏者のコミュニケーションを良くしながら、新たな方向に向かっていきたいと考えています。そのためには全体のプログラミングが大事。僕は依頼公演にも目配りしていますし、必ずや良くなってくれると思います。とはいえスケールの大きさは変わらぬ特徴。中でも音色が合ったドイツものではプラスαが出てくるので、僕も煽られていますよ」

 東京公演は大阪での1月定期と同じ演目。「東京公演は大事なので、そのためだけに練習するのではなく、定期のために練習し、大阪で演奏してから臨みたい」と話す。

 前半のプロは、英国が生んだ現代最高のチェリストの一人、スティーヴン・イッサーリスがソロを弾くエルガーのチェロ協奏曲だ。
「スティーヴンとは長い付き合い。本当に波長が合って、もう何回共演したか分かりません。彼は物凄い“音楽家”。人間性の凄さがそのまま音楽に出ながらも作曲家に忠実で、変なことはしないのに演奏は素晴らしい。エルガーはもうピカイチで、英国でも最高とのお墨付きを得ています。でも神がかっていて、目がうつろになるので指揮する方は結構怖い(笑)。ともかく圧倒的な演奏になりますから、ぜひ聴いてほしいですね」

 エルガーは尾高がとりわけ力を注ぐ作曲家でもある。
「エルガーの特徴をひと言で言うなら“愛(ラヴ)”。愛を表す7度の跳躍をあれほど使った作曲家はおらず、これが人の心を打ちます。チェロ協奏曲は4楽章それぞれキャラクターが違う曲。荘厳な動きに始まり、最終的には天国に行く。そこでスティーヴンの目がうつろになるのが分かりますよ」

 後半は、初挑戦となるブルックナーの交響曲第3番「ワーグナー」。
「僕はブルックナーの9番を振りたくて指揮者になりました。でも1、2、3、6、0番は演奏していません。その中で3番は随分前から取り上げるべく勉強したのですが、数多い版のどれを選ぶか決めかねていました。しかし朝比奈隆先生ゆかりの大阪フィルに来たからには、ここで3番を始めるべきだと考えて今一度勉強し、完成度が高く、流れが自然な第3稿を選ぶことにしました」

 第3番は「良いところが一杯ある曲」だと話す。
「当時のブルックナーの良い意味での若々しさがあって、自分がストレートに出ていますし、民族舞踊などが1、2番に比べて大胆に挟まれ、オーケストレーションが面白いほど複雑に書いてあります。ただしバランスが結構難しく、例えば旋律が途中で消えてしまわないようにしないといけない。そこは苦労しながらも、今度の演奏が楽しみですね」

 尾高にとってブルックナーの魅力は「やはり“神”」であり、「神がそこにいる。しかもプロテスタントではなくカトリック。下手に細工をすると崩れてしまう」と語る。大阪フィルのブルックナーの3番は、02年に若杉弘が指揮した朝比奈の追悼公演以来で、その時も東京公演の演目だった。尾高がそれを知らずに決めたという神のお導きのような本公演を、見逃すわけにはいかない。
取材・文:柴田克彦
(ぶらあぼ2020年1月号より)

大阪フィルハーモニー交響楽団
第534回 定期演奏会
2020.1/16(木)、1/17(金)各日19:00 大阪/フェスティバルホール
第52回 東京定期演奏会
2020.1/21(火)19:00 サントリーホール
問:大阪フィル・チケットセンター06-6656-4890
  カジモト・イープラス0570-06-9960(1/21のみ)
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