西村 朗(草津夏期国際音楽アカデミー &フェスティヴァル音楽監督)

日本で最も歴史のある音楽フェスティヴァル、40年目となる今回の魅力は?

C)東京オペラシティ文化財団 大窪道治

 毎年8月に群馬県草津町で開催される「草津夏期国際音楽アカデミー&フェスティヴァル」。1980年に日本で最初の本格的な夏期の音楽アカデミーとしてスタートし、今年40回目を迎える。アカデミーのみならず、講師たちによる演奏会が連日開催されるなど、国内有数の音楽祭として知られ、2010年からは、作曲家の西村朗が音楽監督を務める。

「最初にこの音楽祭に関わったのは1984年。当時はアカデミーに作曲のクラスがあって、イサン・ユン先生が講師で来た時に、月刊誌『音楽芸術』の依頼でインタビューしました。その頃、草津は現代音楽の重要な夏の拠点で、それからほぼ毎年通い続け、作曲の個展も開いてもらいました。まずは一作曲家として参加し、遠山一行先生の後を引き継いで音楽監督になってからは、難しい面や大変な面もありますが、多くの方々に支えていただき、この10年はあっという間でした」

 音楽祭は毎回異なるテーマが設定され、作曲家に絞ることも、昨年の「自然」のようにテーマを広げることも。今年は、「バッハからシューベルトへ」。二人の作曲家をどのように関係づけるかというと…。

「テーマを広げたり絞ったりするダイナミズムは大切で、今回はちょうど中間くらい。40回目だから何か特別にすることなく、テーマもガチガチにしないでゆったりやりたいなと思っています。シューベルトはベートーヴェンと同時代を生きていますが、時代としては19世紀の作曲家。シューベルトにとってバロックは明らかに過去の時代ですが、当時のウィーンでは、バッハの音楽はメジャーで、学ぶべき対象になっていました。シューベルトにその影響があるかないかではなく、バッハという時代の流れで広がりをもっていく作曲家の姿、次を見ているシューベルト。過去からの風を受けながらシューベルトが先に進もうとする。そこに接点があるわけですね」

 シューベルトをめぐる演奏会のなかで注目されるのは、音楽祭と縁の深いテノール歌手、故・エルンスト・ヘフリガーの生誕100年を記念する「シューベルトの歌曲とシューベルティアーデ」。豪華な出演者とともに、シューベルトが愛好したギターが編成に入るのも興味深い。

「歌とギターの組み合わせは自然だけれど、意外にやっていないでしょう。ギターの鈴木大介さんは、武満徹さんから絶賛された近現代のスペシャリスト。シューベルトの時代と今とでは、歌とギターがもたらす世界が違うので、それをどのようにするのかが聴きどころだと思います」

 この演奏会では西村のチェロ作品も日本初演される。「チェロのタマーシュ・ヴァルガから、コダーイの無伴奏ソナタと同じ特殊な調弦で書いてと頼まれてね」と、無茶な?要求にも軽々と応え新たな創造が生まれる。演奏家が自由に発言して作り上げていくのは、この音楽祭の魅力でもある。今回はジャズ界の大御所、秋吉敏子を迎えてのコンサートや遠山慶子のショパンなど必聴の演奏会が目白押し。避暑を兼ねて草津へ。豊かで贅沢な時間が過ごせそうだ。
取材・文:柴辻純子
(ぶらあぼ2019年7月号より)

第40回草津夏期国際音楽アカデミー&フェスティヴァル
2019.8/17(土)〜8/31(土) 草津音楽の森国際コンサートホール
問:草津夏期国際音楽アカデミー事務局03-5790-5561
http://kusa2.jp/
※音楽アカデミー&フェスティヴァルの詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。