佐藤卓史(ピアノ)

ベートーヴェンへの意欲漲る

 佐藤卓史は、同世代の中でも特別な存在感を放つピアニストだ。18歳の頃、日本音楽コンクール優勝で注目を集め、その後もシューベルト国際コンクール優勝など、数々の著名コンクールで成果を残した。精力的な演奏活動を行いながらも、留学先での研鑽やコンクールへの挑戦を続けてきた彼が、30歳を迎えて活動拠点を日本に戻すという。
 デビュー10周年を記念する今回のリサイタルでプログラムに掲げるのは、ベートーヴェンの「4大ピアノ・ソナタ」(悲愴、ワルトシュタイン、月光、熱情)。ベートーヴェンは彼にとって特に大切な作曲家だというから、並々ならぬ意気込みがうかがえる。佐藤のピアノの魅力の一つは、考え抜かれた音楽づくりにある。絶妙にタッチを切り替えながら、決して力技に頼ることなく、誠実に譜面の奥にあるものを表現する。長らくハノーファーで学んだ後、2011年からウィーンに移ったことで一段と音楽に香りや遊びが加わった。ベートーヴェンが後半生を過ごした街で吸収したものが花開く一夜になりそうだ

文:高坂はる香
(ぶらあぼ2013年10月号から)

★10月9日(水)・東京文化会館(小)
問:アスペン03-5467-0081 http://www.aspen.jp

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