伊藤京子(ピアノ/別府アルゲリッチ音楽祭総合プロデューサー)

アルゲリッチと発信するベートーヴェンの芸術と人類愛

©Rikimaru Hotta

 昨年、第20回のメモリアル・イヤーを迎えた別府アルゲリッチ音楽祭。大分は日本における西洋音楽発祥の地と言われ、ローマと大分との縁も深く、16世紀半ばに守護大名・大友宗麟が聖フランシスコ・ザビエルを庇護したことでも知られる。そうした歴史を踏まえ、同地で育まれている音楽祭は「アルゲリッチの出会いの場」との意味合いから、2018年12月にはローマ公演が実現。アントニオ・パッパーノ指揮サンタ・チェチーリア国立アカデミー管弦楽団とアルゲリッチ、ミッシャ・マイスキー、竹澤恭子、豊嶋泰嗣が共演し、大成功を収めた。教育プログラム「ピノキオコンサート」も開催され、アルゲリッチと伊藤京子が出演。同音楽祭は「育む」「アジア」「創造と発信」を目的に掲げており、ローマでは「アルゲリッチ音楽祭」を世界へと発信することが実現したことになる。
 第21回のテーマは「悠久の真実〜ベートーヴェン」。2020年のベートーヴェン生誕250年を念頭に置いてベートーヴェンをシンボリックにとらえ、のちに続くさまざまな作曲家の作品がプログラムに登場する。総合プロデューサーのピアニスト、伊藤京子が語る。
「ベートーヴェンが生涯をかけて探求した人類愛と総監督のアルゲリッチが希求する世界平和実現への願いを込め、ベートーヴェンのアニバーサリーイヤーに先駆けてテーマとしました。ベートーヴェンの精神を反映し、彼に続く多くの作曲家たちが引き継ぎ、探求し続けた“悠久の真実”は芸術の根本であり、いまなお作品を通してメッセージが伝えられています」
 今回は5月12日から6月2日まで11公演が組まれ、オーケストラ・コンサートはシャルル・デュトワ指揮東京音楽大学シンフォニーオーケストラ、ソロはアルゲリッチとマイスキーが務める。「未来プロジェクト」は「平野啓一郎 ベートーヴェンを語る」が組まれ、「室内楽コンサート」ではアルゲリッチ、豊嶋泰嗣らがベートーヴェン他の作品を演奏する。
「心の育みを目的とした大人とこどものための音・学・会『ピノキオコンサート』も今年は100回目を迎え、東京公演も行います。昨年から音楽祭運営に大分市が加わり、今年は平和市民公園能楽堂で『スペシャル・カルテット〜弦楽器の魅力』を予定しています」
 常に「社会の中の芸術」を考慮し、世界に目を向けている同音楽祭。音楽祭アドバイザリー・コミッティを務めるアントニオ・パッパーノにはファンクラブ「Pappano’s Club Cantabile」も発足した。さらなる飛躍に期待したい。
取材・文:伊熊よし子
(ぶらあぼ2019年4月号より)

第21回 別府アルゲリッチ音楽祭
2019.5/12(日)〜6/2(日) しいきアルゲリッチハウス、ビーコンプラザ、iichiko総合文化センター 他
問:アルゲリッチ芸術振興財団0977-27-2299 
https://www.argerich-mf.jp/