東 誠三(ピアノ)

ロマン派作曲家2人の精神世界と向き合う

©Ariga Terasawa

 作品への精緻なアプローチによって、すべての音に生命力を与えるピアニスト東誠三。今年のリサイタルは、二つの「連作もの」を取り上げる。前半はシューベルトの「4つの即興曲 op.142 D935」、後半はショパンの「12の練習曲 op.25」だ。ロマン派前期に短い生涯を送った二人の作品である。
「シューベルトはウィーン古典派の先人たちの流れを汲んで創作した人であり、ショパンは新しい表現に挑戦し、形にした人です。そうした違いのある二人ですが、どちらも自分の心の中、内面世界へと深く入り込んでゆく性質を持っていました。そんな彼らの相違点と共通点とを浮かび上がらせることが、今回のプログラムのねらいです」

 歌曲の作曲家、シューベルト。その作品は基本的に「穏やかに流れ、メロディアス」と東は語るが、一方で突如として激する場面があるという。
「心の中を急に曝け出してしまうような場面が、どの作品にもあるのです。他人には絶対見せないような、自分でもコントロールできない激しい感情。この即興曲でいえば第1番の冒頭がそれに当たります。ヘ短調という、ベートーヴェンが熱情ソナタで用いた調性の主和音を、率直に鳴らします。彼の即興曲の中でもっとも衝撃的な出だしではないでしょうか」
 「蝶々」「木枯らし」「大洋」などを含むショパンの「練習曲 op.25」は、全12曲を通して演奏することで、その「繋がりの絶妙さ」が見えてくるという。
「次曲へと自然に繋がり、ときには意外性も効かせる調性の配置に、ショパンの高いセンスを感じます。12曲の中で白眉と言えるのが、第7番に鎮座する嬰ハ短調です。冒頭の独白、幻想的な展開、激情的な表現、後半の魂の浮遊。20代のショパンにいったい何が見えていたのだろうと、恐ろしくなるほどの感受性がうかがえます。作品に表現しているということは、その何十倍ものことを感じ取っていたということですから」

 社会的インフラが急速に整い、ピアノという楽器も、音楽家のあり方も、大きく変化する時代にあったシューベルトとショパン。
「世の中がスピーディーに変化してゆくという感覚は、現代の我々も同じように感じているものかもしれません。演奏とは、彼らの鋭い感性や深い精神世界に限りなく近づこうとする行為です。彼らの残した遺産である音楽を通して、いつの世も人間の心の世界は変わり動き続けてきたのだということを、伝えていけたらと思っています」
取材・文:飯田有抄
(ぶらあぼ2019年3月号より)

東 誠三 ピアノ・リサイタル 
2019.4/14(日)14:00 東京文化会館 (小)
問:ムジカキアラ03-6431-8186 
https://www.musicachiara.com/

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