官能の交錯、そして世界初演のコンチェルトを
世界で躍進を続ける山田和樹。会場に一度でも足を運べば、あなたも虜になるはずだ。さわやかな身のこなしで登場し、歯切れ良く進めていくかと思いきや、時に思いがけない大技もかけてくる。日本人にはあまり見かけないスター性の持ち主なのだ。
その山田が、いよいよ読響の首席客演指揮者として定期に登場する。両者は2011年以来共演を重ねているが、1月は新たなスタートだ。あれがターニングポイントだった、と後から振り返る演奏会となるかもしれない。
山田はプログラミングにもひねりを効かせるが、とりわけ今回は気合を感じる。まずはドイツ・ロマン派風の重厚な作風をもつ諸井三郎の最初期の作品「交響的断章」。ワーグナーやブルックナーを想起させる荘重な開始に、勇壮なアレグロが続く。在京オケは外国人シェフが増えているだけに、邦人作曲家を積極的に紹介する山田の取り組みは意義を増している。
続いて世界をリードする藤倉大の最新作、ピアノ協奏曲第三番「インパルス」の日本初演。山田が深く関わるモンテカルロ・フィル、スイス・ロマンド管と読響の共同委嘱作で、すでに10月にモナコでの初演も済んだ。ソロは世界初演時と同じ小菅優。すでに世界の音楽シーンで存在感を発揮している3人がタッグを組んだのだから、面白くないわけがなかろう。
後半も読み筋が興味深い。まずは《パルジファル》より第1幕への前奏曲。長らくバイロイト祝祭劇場門外不出だったこの舞台神聖祝典劇は、上演そのものが救済の秘蹟として目論まれているが、《パルジファル》の宗教と性の官能の交錯は、スクリャービン「法悦の詩」の神秘体験がもたらす法悦=エクスタシーにつながっていく。実はこの流れには、ドイツ・ロマン主義の延長で創作を続けた戦前の諸井を別の方向から刺激していたもう一人のヤマダ、すなわちドイツに留学しながらスクリャービンにのめりこんだ山田耕筰を隠し玉として読み込むこともできよう。リアルタイムの現在に至る近代日本音楽の歩みを一気に俯瞰する、意味深かつ野心的なプログラミングではないか。過去を踏まえ未来を開く山田の活動から目が離せない!
文:江藤光紀
【Information】
読売日本交響楽団 第584回定期演奏会
2019.1/18(金)19:00 サントリーホール
指揮:山田和樹
ピアノ:小菅 優
曲目:
諸井三郎:交響的断章
藤倉 大:ピアノ協奏曲 第3番 「インパルス」(共同委嘱作品/日本初演)
ワーグナー:舞台神聖祭典劇《パルジファル》から第1幕への前奏曲
スクリャービン:交響曲 第4番「法悦の詩」 作品54
料金:S¥7500 A¥6500 B¥5500 C¥4000
問:読響チケットせンター0570-00-4390
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