池辺晋一郎と小倉貴久子が 「第48回 JXTG音楽賞」を受賞

表彰式から 左より:内田幸雄(JXTGホールディングス株式会社 代表取締役会長)、池辺晋一郎、奥本大三郎(児童文化賞受賞者)、杵屋勝国、小倉貴久子、杉森 務(JXTGホールディングス株式会社 代表取締役社長) Photo:I.Sugimura/Tokyo MDE
 11月16日、2018年度のJXTG童話賞、同児童文化賞、同音楽賞の表彰式が開催された。JXTG音楽賞は日本の音楽文化の発展に寄与した個人、団体に贈呈される賞で邦楽部門、洋楽部門(本賞、奨励賞)からなる。1971年創設以来、多くの邦楽、洋楽の音楽家を選出してきた歴史と伝統ある賞だ。今年の邦楽部門では長唄三味線方の杵屋勝国、洋楽部門本賞では作曲の池辺晋一郎、同奨励賞ではフォルテピアノの小倉貴久子が受賞した。

作曲家にして類稀なるプロデューサー

 洋楽部門選考委員の関根礼子は、本賞受賞理由として、「池辺さんはオペラ14作(合唱オペラを含む)、交響曲10作をはじめ、数多くの作品を書き、シリアスなものから、親しみやすい作風まで幅広い」とその創作の実績を紹介。「各ホールでの企画にも数多く携わり、ホールスタッフからの信頼も厚い」とプロデューサーとしての手腕も選出理由になったと述べた。受賞スピーチで池辺は「今は各賞の審査員側になることが多いので、賞をいただく側になったのには驚いている」と述べ、「このような賞をいただけたのも、お仕事を依頼してくださった方々のおかげ」と謝意を表し、池辺流にシェイクスピアの文言をもじって「喜びは大挙してやってくる」と話し会場を沸かせた。また、すでに数多くのオペラを書いてきた池辺は、「オペラは音楽と一緒にあゆむ演劇なので、オペラでは時間進行や空間設計という点においても“ドラマ”がとても大切」という持論を語った。待望の次作も控えており、「音楽監督をつとめる予定の姫路のコンサートホールが3年後に開場する際のこけら落としのオペラを構想中で、今、友人の劇作家に台本を作成してもらっているところです」。

鍵盤音楽の解釈に新たな価値観を

 洋楽部門奨励賞受賞の小倉について、選考委員の中村孝義は、「ピリオド楽器による演奏やその奏法を活かす潮流は現在重要になっているが、小倉さんはそのフロンティア的な存在」と讃え、「過去の時代の音楽の真価を改めて開眼させたその功績は大変大きい」と受賞理由を述べた。受賞スピーチで小倉は「オランダ留学中にフォルテピアノの魅力に目覚め、個性的な楽器やかつて人気のあった知られざる作曲家の作品について探求していくようになりました」と楽器との出会いについて言及。当時は世間の理解も今ほどではなく、「モーツァルトよりも少し前の時代に活躍したコジェルフ作品のディスクをつくりたいと思った時には、こういった活動はほんの少数のファンの間で知られていたのみでした」と回想した。最近ではビゼー作品集のディスクをリリースするなど、活動の幅が広がっているが、2018年から「フォルテピアノ・アカデミー」を始動させたという。「フォルテピアノの魅力をより深く理解するには、価値観の転換が必要になります。現代のピアノのような大きな音は出ませんが、フォルテピアノにはまた違った魅力があるのです。アカデミーでは実際に楽器に触れながら、現代のピアノとは異なるフォルテピアノの素晴らしさを体験する機会を設けていきたいと考えています」。
取材・文:伊藤制子
(ぶらあぼ2019年1月号より)

JXTGホールディングス
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