若林かをり フルートリサイタル〜邦人作品を聽く〜

日本人作曲家によりフルート作品の軌跡を一望する野心的な企画

C)JUMPEI TAINAKA

平成30年度(第73回)文化庁芸術祭参加公演
フルートリサイタル〜邦人作品を聽く〜2公演

 ヨーロッパは楽音と非楽音を区別し、楽音を体系化して明快な形を作り上げた。それに追いつくことが近代日本音楽の課題だった。しかし、私たち日本人の伝統は、音を必ずしもそのように区別するものではなかった。音楽は身体性とより密接に結び、音程の揺らぎ、息のムラなど、ヨーロッパでは排除されるべきものも美意識の対象となってきたのである。
 唄口に息を当て発音するフルートは、西洋楽器でありながら日本的な音の身振りにも近く、双方の表現力を備えたその可能性に、日本の作曲家たちが惹かれたのは自然なことだったろう。しかし創作の営為も優れた演奏家に支えられて、はじめて豊かに実る。

 現代フルート界を牽引する鬼才マリオ・カローリのもとで研鑽を重ねた若林かをりは、この沃野を現在進行形で精力的に開拓しているフルーティストだ。2015年より開催している「フルーティッシモ!」は毎回フルートのための最先端の独奏曲を取り上げ、平成29年度には文化庁新人賞を受賞するなど、高い評価を受けている。

C)JUMPEI TAINAKA

 海外の動向を押さえた「フルーティッシモ!」に対し、11月3日と4日、2日間にわたり開催される彼女の「若林かをりフルートリサイタル〜邦人作品を聽く〜」は、日本人作曲家のみ、大家から若手の新作まで計13曲が演奏される。

 戦後、日本の現代音楽が国際的な認知を受ける過程では、日本的な表現特性と西洋的な形を融合することが求められた。そうした世代の先陣を切った武満徹ら、そしてその問題意識を継ぐ細川俊夫の作品を押さえつつ、西洋/東洋という意識が絶対的な創作の前提となってはいない、グローバリゼーション時代のアクチュアルな表現まで、作曲家の生年順に作品を並べ、フルート音楽の軌跡を一望してしまおうという、若林にしてはじめて可能な野心的企画だ。

 1日目はピアノとのデュオで、林光に始まり6作品。機能性に優れ、一方音の身振りは表現しにくいピアノとの組み合わせで彼らは何を追求し、表現したのだろうか。ピアノは若林千春。パートナーとして息のあったところが楽しめそうだ。
 翌日は「フルート独奏の〈こえ〉を巡って」と題し、武満徹に始まり新作を含む7作。無伴奏ではより自由な身振りが聴かれることだろう。

 このリサイタル、開催時間もふるっていて、土日の朝11時から1時間20分ほど。場所はトーキョーコンサーツ・ラボ。創意を、息づかいまでが分かる距離で味わう、濃密な休日の朝となるだろう。
文:江藤光紀


【information】
平成30年度(第73回)文化庁芸術祭参加公演
若林かをりフルートリサイタル〜邦人作品を聽く〜

会場:トーキョーコンサーツ・ラボ

◎フルートとピアノのための作品
2018.11/3(土・祝)11:00

プログラム
林 光(1931-2012):二月の風・ソナチネ(2011)
細川俊夫(1955-):リート(2007)
若林千春(1961-):TEN-SEN-MEN Ⅰ(2004)
杉山洋一(1969-):カワムラ ナベブタムシ(2008-09)
望月 京(1969-):Intermezzi Ⅰ(1998)
徳永 崇(1973-):AMA Ic-2 (2007)

◎フルート独奏の〈こえ〉を巡って
2018.11/4(日)11:00

プログラム
武満 徹(1930-96):Voice(1967)
一柳 慧(1933-):忘れえぬ記憶の中に(2000)
細川俊夫(1955-):息の歌(1997)
若林千春(1961-):光跡 Ⅰ(2014)
藤倉 大(1977-):Gracier(2010)
浅井暁子(1977-):朽ちた緒の先で(2018)[アルトフルート独奏版 委嘱初演]
白井智子(1993-):Kachi ka-Chi(2017)

料金
一般: 2,000円 (当日2,500円)
学生: 1,000円
二日連続券: 3,000円

チケット予約・お問い合わせ
■電話03-3200-9755
(東京コンサーツ/平日10時~18時)

■インターネット
ラボ公式サイト(専用申し込みフォーム)
http://tocon-lab.com/
または
メール
lab.ticket@tokyo-concerts.co.jp
※メール本文に「公演名/氏名/電話番号/券種/枚数」をご記載下さい。

助成:沖縄県立芸術大学芸術振興財団

【Profile】
東京藝術大学音楽学部卒業。ムラマツフルートレッスンセンターで講師を務めた後渡仏。ストラスブール音楽院、ルガーノ音楽院を修了。修了論文のテーマは『日本文化・・・時間と空間の総括概念である“間”が、ヨーロッパの現代音楽にもたらした影響について』。(財)ロームミュージックファンデーション奨学生、(財)平和堂財団海外留学助成受給者。現代音楽演奏コンクール“競楽Ⅹ” 第二位。平成18年度平和堂財団芸術奨励賞受賞。平成27年度滋賀県文化奨励賞受賞。NHK-FM「名曲リサイタル」に出演する他、国内外の音楽祭やコンサートで演奏活動を展開。平成29年度文化庁新進芸術家海外研修員としてフランスでの芸術祭に参加・公演を行う。無伴奏リサイタル「フルーティッシモ!」の成果により第72回文化庁芸術祭賞新人賞受賞。活動の様子は、ビルボード・ジャパンサイトをはじめ、日経新聞電子版「ビジュアル音楽堂」、クラシック音楽情報誌「ぶらあぼ」、アルソ出版「THE FLUTE」などで取り上げられている。和歌山大学教育学部非常勤講師を経て、2018年4月より沖縄県立芸術大学助教。