大井剛史(指揮) 東京交響楽団

戦後復興期に書かれた邦人4作品に光を当てる


 終戦直後に創設された東響は当時の常任指揮者・上田仁のタクトで日本や海外の現代音楽を数多く紹介した。戦後20年ほどの間に書かれた邦人4作品を集めた10月の川崎定期は、そんな同団の原点を確認するコンサートになりそうだ。
 モダニズム音楽に傾倒した深井史郎は、戦前から洒脱なスタイルで注目を集めた。上田&東響が1956年に初演した「架空のバレエのための三楽章」でも洗練された筆先が色彩豊かな世界を描きだす。早坂文雄の「ピアノ協奏曲」は48年の作で、まだ東宝交響楽団と名乗っていた東響が上田と初演。日本風の音調や様式感を積極的に生かした早坂だが、この曲ではロマン派を思わせる深々とした情緒を湛えたレントに、軽やかでユーモラスなロンドが続く。独奏はリスト国際ピアノコンクールの覇者・阪田知樹。西洋と東洋の葛藤を生きた早坂の音楽に、若い阪田は何を読み取るのだろう。
 小山清茂は日本の土俗的・呪術的な力を音楽で表現しており、「弦楽のためのアイヌの唄」でも力強いリズムに乗って勇壮な旋律が歌い出される。次の「シンフォニア・タプカーラ」もアイヌからインスピレーションを受けて書かれたが、作曲者の伊福部昭は早坂・小山と同年の1914年生まれ。独特のリズムと節回しの伊福部調が、聴き手を郷愁の舞踏へと誘う。この曲もアメリカ初演後、上田&東響が日本初演した。
 現在、東京佼成ウインドオーケストラの正指揮者を務める大井剛史は、こうした邦人作品のツボをよく知っている。青年期から働き盛りに戦争に直面した世代が復興の時代、音楽に何を求め、何を表現したのかを確かめたい。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2018年10月号より)

川崎定期演奏会第68回
2018.10/7(日)14:00 ミューザ川崎シンフォニーホール
問:TOKYO SYMPHONYチケットセンター044-520-1511 
http://tokyosymphony.jp/