松田華音(ピアノ)

若き才媛とロシアの名手たちの美しき共演

C)Ayako Yamamoto
 日本人初のロシア政府特別奨学生として、現在もモスクワ音楽院に在籍中の松田華音。モスクワと日本とを行き来し、学業と両立させながら、充実の演奏活動を展開している。この秋には、ユーリ・バシュメット(指揮/ヴィオラ)&モスクワ・ソロイスツとの初共演を果たす。
「バシュメットさんは、ロシアでも知らない人はいない、素晴らしい音楽家です。先日彼がシュニトケの協奏曲と、ジョージア(グルジア)の作曲家のカンチェリの作品を演奏したコンサートを聴きましたが、衝撃を受けました。まるで映像が目の前に広がるかのようでした。そのコンサートのレセプションでご挨拶をさせていただきましたが、とても優しい方で、『10月の公演を楽しみにしているよ』とおっしゃってくださいました。初共演なので、自分の演奏をどう思ってくださるのか、やはり緊張感はありますが、ショスタコーヴィチのとても面白い作品を演奏するので、私自身も楽しみです」
 今回、松田がピアノ独奏を務めるのは、ショスタコーヴィチのピアノ協奏曲第1番ハ短調。「ピアノとトランペット、弦楽合奏のための協奏曲」としても知られるとおり、編成からしてユニークな作品だ。トランペットの独奏は、東京都交響楽団の首席奏者・高橋敦が務める。
「4つの楽章の中に、ベートーヴェンの『熱情ソナタ』や『ロンド・ア・カプリッチョ』、そしてユダヤの民族的な音楽の引用もされています。それらが安っぽいパロディとはならないように、そこに配置された意味を考えながら演奏したいです。モスクワ・ソロイスツや高橋さんとの掛け合いが楽しみです」
 音楽院の授業で「一番好き」と語る「音楽史」では、ショスタコーヴィチや同時代のプロコフィエフについて大きな関心を持ったという。
「プロコフィエフは、昨年アルバムに録音した『ロメオとジュリエット』のように、愛や美といったテーマを作品に盛り込んでいますが、ショスタコーヴィチはまったく違いますね。どこかヴェールの掛かったような冷たさを感じます。政治的抑圧を受けていた彼の音楽では、一聴して感じ取れるものと、そこに隠された本音とは異なっていて、それを表現する難しさはあります」
 本公演では、ほかに武満徹の弦楽のための3つの映画音楽や、チャイコフスキーの夜想曲、弦楽セレナーデが演奏される。
「プログラム的にも珍しいコンサートなので、存分に楽しんでいただけると思います。ぜひ多くの方にお越しいただきたいです」
取材・文:飯田有抄
(ぶらあぼ2018年9月号より)

ユーリ・バシュメット(指揮/ヴィオラ)&モスクワ・ソロイスツ
2018.10/3(水)19:00 紀尾井ホール
問:ジャパン・アーツぴあ03-5774-3040 
http://www.japanarts.co.jp/
※バシュメット&モスクワ・ソロイスツの全国公演(福岡・大阪・東京・青森)の詳細については上記ウェブサイトでご確認ください。