嘉目真木子(ソプラノ)

若きディーヴァが《金閣寺》と《魔弾の射手》でみせる新境地


 佐藤しのぶ、佐々木典子ら、東京二期会に連綿と続く名歌手の系譜に加わるであろう期待のソプラノ、嘉目真木子。いま最も輝いているオペラ歌手の一人だ。小さいときから歌が好きで、小学2年生でオペラに目覚めたというから驚きだ。
「最初の出会いは大分県民オペラ協会の《魔笛》でした。地元大分の児童合唱団に入っていたのですが、《魔笛》に森の動物役で出演することになり、プロの歌手が間近で歌うのを聴いてオペラってすごいなあ、と。相前後して、ルチア・ポップが歌う《魔笛》の録音を聴いて、人間の声を楽器のように操れることに衝撃を受けました」
 二期会オペラ研修所を経て、本格的なデビューを飾ったのも《魔笛》(2010年、演出:実相寺昭雄)。以後、11年《フィガロの結婚》スザンナ役、12年KAATネオ・オペラ『マダム・バタフライX』蝶々さん役、2年間のイタリア留学を挟んで、15年《魔笛》と檜舞台を駆け上がる。その過程で常に大きな存在だったのが演出家、宮本亜門だ。今年3月、黛敏郎作曲、宮本演出のオペラ《金閣寺》で嘉目はフランス・デビューを果たした。そのプロダクション(フランス国立ラン歌劇場との共同制作)が19年2月、日本でも上演される。
「宮本さんとご一緒させていただくのはフランスでの《金閣寺》で5回目でしたが、毎回が新鮮ですね。宮本さんの譜面には、小節単位で演出での動きが全部書かれてあるのです。前へ前へと常にすごいスピードで進む方ですから、一生懸命についていく。すると、知らなかった自分を発見できるのです。登場人物の感情の動きを大事にされるので、気持ちが変化するきっかけなど、とても勉強になります」
 今回嘉目が演じる「若い女」は、戦争で恋人を失い、その人との間の子も死産した過去を抱えている。
「三島由紀夫の女性の扱いには偏った部分があるので、表現するのは難しい。けれども、これまで演ってきた役と全く逆のベクトルを持っているので、面白いですね。若い女という役自体は、このオペラのなかで唯一明るい存在。つらい過去を持っていながらも前へ進む強い意志を持っているので、ストレートに表現できました。
 若い陸軍士官に自分の乳を注いだ茶を供する場面は、音楽が美しく神秘的なので、そこを宮本さんがどう演出されるのか楽しみにしていたのですが、それはそれは美しく描かれていました」
 フランス公演は外国人キャスト中心だったが、19年2月の東京公演はすべて日本人キャストでの上演となる。
「3月のはフランス版、日本では日本版《金閣寺》を創りたいと宮本さんは仰っています。日本版では、いろんな部分が変わってくると思いますので楽しみです」
 7月には《魔弾の射手》のアガーテ役が控える。
「二期会研修生の時に友人がアガーテを歌っているのを聴いて、ああ、いつか演れたらなあ、でも、一生やらないかもなあ、と思っていたところ、二期会で上演すると聞いて、飛びつきました!」
 本来自分が目指していたレパートリーへの挑戦、その第一歩だとも語る。
「年齢にあった声域の役をできるところから、と考えてやってきたので、これまではスーブレット(小間使いや年若い女性の役)が多かったのですが、自分の声質や志向と、役の性格や物語の中での立ち位置などを考えてみると、もう少し年上の役をやっていきたい、とずっと思っていました。アガーテは、《魔笛》のパミーナに通じる部分、一途に信じ抜く強さがある。蝶々さんやトスカにも通じる、大きな意味で女性が持っている意志の強さですね。《魔弾の射手》はジングシュピールですので、台詞できちんとお芝居を見せるという新鮮さもあります」
 11月には《コジ・ファン・トゥッテ》にフィオルディリージ役で登場する。
「これもずっと目標にしてきた役です。自分にとって、今年は挑戦の役が続きます。そして、これはずっと先の話になりますが、いつか《ばらの騎士》の元帥夫人を歌えたらいいですね」
 二期会オペラ研修所を修了してから、着実にチャンスをものにし、オペラ・ファンの期待に応えてきた。目標にしてきた役柄を手繰り寄せる強運の持ち主が挑戦する、新たな領域に耳を傾けたい。
取材・文&写真:寺司正彦
(ぶらあぼ2018年7月号より)


【Profile】

大分県出身。2010年東京二期会《魔笛》(実相寺昭雄演出)パミーナで本格的にオペラデビュー。以降、宮本亜門演出による東京二期会《フィガロの結婚》スザンナ、同《魔笛》パミーナのほか、《パリアッチ》ネッダ、《こうもり》ロザリンデ、《蝶々夫人》《トスカ》《夕鶴》各題名役等に出演。18年3月フランス国立ラン歌劇場《金閣寺》に出演し欧州デビューを果たす。今後は7月東京二期会《魔弾の射手》アガーテ、11月日生劇場《コジ・ファン・トゥッテ》フィオルディリージ、19年2月東京二期会《金閣寺》に出演予定。二期会会員。

【Information】
●東京二期会オペラ劇場 
ウェーバー《魔弾の射手》(新演出)

指揮:アレホ・ペレス 
演出:ペーター・コンヴィチュニー
管弦楽:読売日本交響楽団 
合唱:二期会合唱団

7/18(水)18:30、7/19(木)14:00、7/21(土)14:00、7/22(日)14:00
東京文化会館

出演
オットカール侯爵:大沼 徹(7/18、7/21) 藪内俊弥(7/19、7/22)
クーノー:米谷毅彦(7/18、7/21) 伊藤 純(7/19、7/22)
アガーテ:嘉目真木子(7/18、7/21) 北村さおり(7/19、7/22)
エンヒェン:冨平安希子(7/18、7/21) 熊田アルベルト彩乃(7/19、7/22)
カスパール:清水宏樹(7/18、7/21) 加藤宏隆(7/19、7/22)
マックス:片寄純也(7/18、7/21) 小貫岩夫(7/19、7/22)
隠者:金子 宏(7/18、7/21) 小鉄和広(7/19、7/22)
キリアン:石崎秀和(7/18、7/21) 杉浦隆大(7/19、7/22)
ザミエル:大和悠河(全日)

●黛 敏郎《金閣寺》(新制作) フランス国立ラン歌劇場との共同制作
指揮:マキシム・パスカル 
管弦楽:東京交響楽団
2019.2/22(金)、2/23(土)、2/24(日) 東京文化会館 

※《金閣寺》の詳細は後日発表予定。

問:チケットスペース03-3234-9999 http://www.ints.co.jp/ 
  二期会チケットセンター03-3796-1831 http://www.nikikai.net/

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