真に世界と同等の価値観を持ちたい
大友直人が熱い! 意外、と言っては失礼だけれど、スマートな長身と端正な音楽作り、いつもジェントルな物腰の大友が、“私のライフワーク”と熱弁をふるうのは、「ミュージック・マスターズ・コース・ジャパン(MMCJ)」のこと。2001年に、大友と指揮者アラン・ギルバートの二人を音楽監督にスタート、今年で18年目を迎える。若い音楽学生のための室内楽セミナーだが、ベースにあるのは日本の音楽界を国際化したいという願いだ。
「東京にはたくさんの素晴らしいコンサートホールがあり、世界中の演奏家たちがやって来ます。しかし一方で、“外来演奏家”“邦人演奏家”という垣根を自ら作っているのも日本の音楽界。また、外来のアーティストにとって日本での演奏の成否は、キャリアのプラスにもマイナスにもならない、ローカルな扱いです。日本のオーケストラに在籍する外国人演奏家もまだまだ少ない。もっとオープンに、真に世界と同等の価値観を持ちたい。海外の音楽学生を招いて、日本を拠点に経験を積んでもらうことを続ければ、少しずつ状況が変わるのではないか」
30年前、タングルウッド音楽祭でそんな思いを語り合った相手が、まだカーティス音楽院のヴァイオリン学生だったギルバートだった。大友30歳、ギルバート21歳。意気投合した二人がじっくり時間をかけて実現したのがMMCJ。01年から木更津で、11年からは横浜みなとみらいホールで毎年続けている“国際教育音楽祭”だ。
受講生は難関オーディションを突破した世界各国の学生たち。今年は21人の精鋭が、6〜7月の約3週間みっちりと学ぶ。
「初対面で互いに手探りだった学生同士が、合宿生活の間にどんどん充実したコミュニケーションを取るようになるのは、私たちが見ていても感動的です」
彼らの成果は受講生による「室内楽コンサート」(7/10)で聴くことができる。大友が「日本で聴ける最高水準の室内楽」と太鼓判を押す、講師陣による「ガラ・コンサート」(7/5)も。講師の顔ぶれは18年間ほぼ不変で、彼らもまた合宿生活で寝食をともにしているから、アンサンブルの密度は年々高まっているのだ。そして大団円は過去の参加者も加わる「オーケストラ・コンサート」(7/15,7/16)。今年は過去最大編成。バルトークの「管弦楽のための協奏曲」を演奏する。作曲家・猿谷紀郎への委嘱作品初演も。猿谷は大友とギルバートが出会った1988年のタングルウッドに参加していた、いわば同志の一人だ。
スポンサーの協力を仰いでいるものの、運営は手弁当だ。大友とギルバートが音楽事務所や広告代理店に働きかければ、もう少し容易に資金を調達できそうなものだし、より大規模なビジネスにできるかもしれない。しかしそれは彼らの本意ではない。隅々まで手の届く規模で自分たちの理想を浸透させる。そんな彼らのすがすがしい情熱と気迫を、私たちもぜひ間近で感じたい。まずはコンサートへ!
取材・文:宮本 明
(ぶらあぼ2018年7月号より)
ミュージック・マスターズ・コース・ジャパン ヨコハマ 2018
ガラ・コンサート
2018.7/5(木)19:00
室内楽コンサート
2018.7/10(火)18:00 横浜みなとみらいホール(小)
オーケストラ・コンサート
2018.7/15(日)14:00 横浜みなとみらいホール(大)
2018.7/16(月・祝)14:00 紀尾井ホール
問:ミュージック・マスターズ・コース・ジャパン03-3470-3361
http://mmcj.org/j.html