辻井伸行にとって初録音の2曲。グリーグは、遅めのテンポで一音一音丁寧に奏され、細部まで明瞭かつ美しく表現されていく。全体にニュアンス豊かでリリシズムが横溢し、カデンツァをはじめ力強さにもこと欠かない。ラフマニノフは、鮮やかなテクニックと多彩な音色を駆使して、変奏ごとの表情の違いが見事に描き分けられた快演。特筆すべきは、V.ペトレンコ&ロイヤル・リヴァプール・フィルが、辻井と当意即妙なやりとりを繰り広げている点。誠意と共感に溢れるバックの呼応は、辻井の協奏曲録音の中でも最上位と言っていい。彼のファンならずとも一聴に値。
文:柴田克彦
(ぶらあぼ2018年7月号より)
【information】
CD『グリーグ:ピアノ協奏曲、ラフマニノフ:パガニーニの主題による狂詩曲/辻井伸行』
グリーグ:ピアノ協奏曲
ラフマニノフ:パガニーニの主題による狂詩曲
辻井伸行(ピアノ)
ヴァシリー・ペトレンコ(指揮)
ロイヤル・リヴァプール・フィルハーモニー管弦楽団
エイベックス・クラシックス
AVCL-25960 ¥3000+税