名教師と愛弟子たちが繰り広げる豪華なステージ
世界的ヴァイオリニスト、ワディム・レーピンが芸術監督を務める「トランス=シベリア芸術祭」が、昨年に続き日本で開催される。今回はレーピンの師匠、ザハール・ブロンが昨年70歳を迎えたことを記念し、教え子たちが師を囲んで祝う豪華なガラ・コンサートが実現する。名教師ブロンの指導を受けて飛躍し、世界で活躍中の名ヴァイオリニストは枚挙に暇がないが、本公演にはレーピン、ベルリン・フィルの第1コンサートマスター樫本大進、10代にしてすでに国際的な舞台での活躍著しい服部百音、わずか12歳の新星パロマ・ソーと、世代の異なる名手たちがそろう。この舞台への意気込みをブロンと服部が語った。
ブロン「私はソロと指揮を担当します。4世代の弟子たちが出演しますが、それぞれ本当に個性的。内容豊かな『音楽の奇跡』を感じていただけるコンサートになると思います」
服部「ブロン先生と門下4人が世代を越えて同じ場所に集い、その一員として弾かせていただくことは、本当に光栄で幸せです」
服部はブロンがその才能を高く評価する逸材で、本公演でも超絶技巧の大作、ヴィエニャフスキ「ファウスト・ファンタジー」を託された。しかし彼女は自分のこと以上に、敬愛するブロンを讃える舞台に立てる喜びを語る。
服部「私は先生の音楽、ご指導、そして芸術家としての生き方そのものにとても感銘を受けていて、同じ舞台は緊張するどころか、見守られているような安心感があります。ご指導の場では分析・理論を重視し、本当に音楽を熟知されていて圧倒されます。お手本で弾いてくださる音も大好きで、私はブロン先生の熱烈なファンでもあるのです」
本公演は4人の門下生の饗宴のみならず、ロシア伝統の奏法や表現を伝える“演奏家”ブロンを、ラヴェル「ツィガーヌ」など複数の楽曲で体験できるのも注目となっている。彼は含蓄豊かな言葉でソロとアンサンブルの違いを表現する。
ブロン「ソロでの演奏とは、いわば『音楽そのものとのアンサンブル』です。作曲家が込めたアイディア、演奏中に生じるインスピレーションなど、様々な発見が演奏過程に生まれてくるわけで、その意味ではアンサンブルと同じだと考えています。一方、重奏は共演者との音楽上のディスカッションの場であり、その中で音楽がより豊かになっていくのです」
ブロンは他にも指導論、日本人の気質など、示唆に富む話が尽きなかったが、「優劣なく全員大好き」という教え子たちへの深い愛情、そして音楽への誠実な姿勢が貫かれていた。本公演は服部たちの名技と共に、受け継がれる伝統と、その融合が生み出す“音楽の奇跡”を目の当たりにする一夜となる。
取材・文:林 昌英
(ぶらあぼ2018年6月号より)
トランス=シベリア芸術祭 in Japan 2018 スーパー☆ヴァイオリニスト 夢の饗宴
2018.6/29(金)19:00 Bunkamuraオーチャードホール
問:Bunkamuraチケットセンター03-3477-9999
http://www.bunkamura.co.jp/