ベートーヴェンはピアニストにとって特別な作曲家です
ピアニスト・指揮者としてマルチな活動を展開するシュテファン・ヴラダー。2015/16シーズンには、ウィーン・コンツェルトハウスによる「シュテファン・ヴラダー50歳バースデー・シリーズ」で、ソリスト、指揮、伴奏、室内楽の一人四役、全13公演に出演し話題を呼んだ。
今回の来日公演はオール・ベートーヴェン・プログラム。ヴラダーは第7回ベートーヴェン国際ピアノコンクールで最年少優勝を果たしており、ベートーヴェンはまさに“十八番”の作曲家といえる。
「ベートーヴェンはピアニストにとって特別な作曲家の一人です。今回演奏する4つのソナタは、“タイトル付き”というだけでなく、音楽的な要素からも、ベートーヴェンのすべての作品の中で最もポピュラーなもの。ウィーンにおけるクラシック音楽シーンにおいても特別な位置を占めており、それぞれまったく異なる音楽様式とエッセンスを持ち合わせているのです」
彼の音楽人生にとって欠かせないベートーヴェンのソナタから、今回は「悲愴」「月光」「熱情」「ワルトシュタイン」の4曲の標題付き作品が選ばれた。どのようなアプローチで臨むのだろうか。
「タイトルは時に誤解を招いてしまう恐れがあります。私はタイトルにはとらわれず、作品の本質をお届けしたいと思っています。特に『月光』ソナタは月光とは何ら関係がありません。様式自体がとても独特で、この曲は多くの作曲家たちに影響を与え、例えばショスタコーヴィチの晩年の作品には人生との別れとして引用されました。『悲愴』は、バロック的な導入から始まり、今回の中でもっとも形式感のあるソナタと言えるでしょう。『ワルトシュタイン』は通常の緩徐楽章のない独特な形式を持つ作品ですし、『熱情』はもっともヴィルトゥオジティに富んだソナタ。合唱のようであり変奏曲の傑作といえる第2楽章、無窮動のような最終楽章から成っています」
ベートーヴェンのピアノ・ソナタは交響曲や室内楽など他のジャンルとの関連も指摘されている。指揮者でもあるヴラダーだが、演奏にあたってはやはりオーケストラの音色を意識しているのだろうか。
「むしろベートーヴェンのオーケストラ作品のほうが、ピアノの音色に強い影響を受けていると思います。しかし、私はピアニストとして、色彩感豊かなサウンドを奏でるために他の楽器の音も意識して弾くようにしています」
ヴラダーは現在、バリトンのボー・スコウフスとシューベルトの歌曲集のプロジェクトを進行中だという。ヨーロッパ全土で定期的に演奏しており、三大歌曲集のレコーディングの完結も話題となった。ピアニスト、指揮者として幅広い活躍をみせるヴラダーの活躍から目が離せない。
取材・文:長井進之介
(ぶらあぼ2018年6月号より)
シュテファン・ヴラダー ピアノ・リサイタル 〜ベートーヴェン4大ピアノ・ソナタ〜
2018.7/26(木)19:00 浜離宮朝日ホール
問:パシフィック・コンサート・マネジメント03-3552-3831
http://www.pacific-concert.co.jp/