満を持してシューマンのチェロ協奏曲に取り組む
名曲なのに、あまり演奏機会に恵まれない作品がある。シューマンの「チェロ協奏曲」もそのひとつかもしれない。そのシューマンの協奏曲に取り組むのが、俊英・辻本玲とリオール・シャンバダール指揮のベルリン交響楽団である。現在、ソロ活動の他に、日本フィルのソロ・チェロ奏者としても活躍する辻本にとって、この作品をオーケストラと共演するのは初めてとなる。また、名門ベルリン交響楽団とも初共演だ。
「チェロ協奏曲の代表作と言えば、やはりドヴォルザークなのでしょうが、ドヴォルザークが勢いで演奏を進められるのとは違い、シューマンの方はものすごく繊細です。チェロだけが目立つのではなく、オーケストラとの一体感があり、全員で一緒に演奏する作品という印象です。ですからこの曲を作り上げるのが楽しみですね」
シューマンのチェロ協奏曲は1850年の作。彼がライプツィヒからデュッセルドルフへ移った時代、交響曲第3番などと同時期の傑作である。シューマンの生前には初演されなかった。
「現実ではない雰囲気、シューマンの頭の中で思い描かれている幻想が登場しているような感覚の作品ですね。第1楽章は特に旋律に跳躍が多くて、頭の中で起こっていることを表現したような部分があります。シューマンの精神的な移り変わりもその中に感じられます。突然、怒ったり、また静かになったりを繰り返すような部分もありますし、その行き来が激しい作品。そういう点で、オーケストラと合わせることが難しいのかなぁとも思います」
この曲の特徴は、彼のピアノ協奏曲の後半2楽章のように楽章間に明確な切れ目がなく、続けて演奏されること。
「第2楽章(ラングザーム=ゆっくりと)は素晴らしい歌です。とても短いのですが、どのコンチェルトと較べても、最も美しい緩徐楽章の一つだと思います。楽章全体として、チェロのソロに対してオケのチェロパートが伴奏する、デュオ的な音楽になっているのですが、そのアイディアも面白い。そして第3楽章はチェリストにとっては技術的に難しい部分が登場します。なかなか一筋縄ではいかない作品ですが、そこが逆に魅力的だとも言えますね」
さて、サントリーホールでのベルリン交響楽団の演奏会(6/22)は、ドヴォルザークの序曲「謝肉祭」に始まり、ベートーヴェンの交響曲第7番と第5番が演奏される。ベートーヴェンの力強い2曲に挟まれて、シューマンの室内楽的とも言えるチェロ協奏曲が、どんな風に響くのか? 辻本とオーケストラの共演が楽しみである。
取材・文:片桐卓也
(ぶらあぼ2018年6月号より)
ベルリン交響楽団
2018.6/22(金)19:00 サントリーホール
問:チケットスペース03-3234-9999
http://www.ints.co.jp/
※ベルリン交響楽団の全国ツアー日程については上記ウェブサイトでご確認ください。