池辺晋一郎 ●作曲

自分が本当に言いたいこと、それが交響曲になるのです

Ikebe2 今回の新作交響曲は管弦楽にソプラノとバリトンのソロを伴う。
「いくらなんでも9番を合唱付きにするのは不遜じゃないですか。どういう曲にしようかと思ったとき、あの3月11日の大震災が起きたのです。その頃、たまたま長田弘さんの詩を読んでいたら、シンプルで素朴な言葉遣い、樹、光、風などを通じて語られた自然と人間のありようが、僕が書きたいことと重なりました。そこでこの詩によるソプラノとバリトンのソロを伴う交響曲を書こうと考えました。ソリストはソプラノの幸田浩子さんとバリトンの宮本益光さん。おふたりとも僕のオペラ《鹿鳴館》の出演者で、日本語のクリアな発音も歌唱も素晴らしい。長田さんの世界を表現するにはやはり男女が必要で、語るというより歌う感じの曲になる予定です。長田さんの詩の世界観には、超高音域や超絶技巧を使わないむしろ平穏な作風がしっくりいきますし、オーケストラもあまり特殊奏法を使わない3管編成です。僕は詩を使う際には一部を抜き出して使うことなく、一篇すべてを使うのですが、今回もそうした形をとっています。全体は歌の入る楽章とオーケストラのみの楽章の全9楽章構成で、第8楽章に〈春のはじまる日〉という詩を使うのは当初から決めていました。明るく余韻を持たせて終わりたかったのです。最後の方にある言葉は『幸福は何だと思うか?』で、このあとにオーケストラのみの第9楽章が続きます」