銘器を弾き分けてプロコフィエフを多角的に表現
世界6大メーカーから毎回異なるピアノを選び、プロコフィエフのピアノ・ソナタ全曲を、全6回で取り上げる。そんな意欲的なシリーズをピアニストの上野優子が始める。年1回ほどのペースで開催予定だ。
上野がプロコフィエフに最初に惹かれたのは、高校2年生の頃。
「浜松国際ピアノアカデミーでリャードフ先生のレッスンを受けたときでした。初めての外国人の先生のレッスン。先生が弾いてくれた第3番のソナタからは様々な情景が浮かぶようでした」
その後、桐朋女子高校の卒業演奏会でソナタ第7番を弾き、デビュー盤にも収録。彼女のピアノ人生の節目に必ず登場する作曲家となった。
「彼が生涯かけて書いたソナタの姿は、年代によって変化し、人の一生を表すようです。戦争のグロテスクさを表現することで平和へのメッセージを強くした時期もありますが、平和を訴えるという普通の方法をとらないところが彼らしい。そして晩年のソナタでは余計なものが削ぎ落とされていきます」
毎回ピアノを変える企画の発案は、11年にわたるイモラ、パリでの留学生活で多様なメーカーの楽器を弾いた経験、また、日本のピアノと調律師のレベル、メンテナンス環境の高さを実感したことに由来する。
「第1回は、作曲家の個性が確立する前の第1、2番のソナタを弾くので、スタインウェイの表現力に助けてもらいながら作品の魅力を表現したいと思いました。曲によって、例えば第6番ならカワイ、第7番と5番は響きの上で倍音の厚みからベーゼンドルファーと、イメージがすぐ繋がった回もあります。他では第3、4番はファツィオリ、第8番はベヒシュタイン、第5、9番はヤマハに決めました。考えるのは楽しいのですが、実際全6回をアレンジし、この一筋縄ではいかない作曲家に対峙することは大きな挑戦になりそう。でも何でも便利になった時代、大変な思いをしながらプロコフィエフに取り組むことで、成長したいのです」
第1回でプロコフィエフに合わせる作曲家は、ベートーヴェン、ドビュッシーとシベリウスだ。
「プロコフィエフの作品には冷酷さや皮肉が含まれますが、同時にロマンティックなところもあり、フランスに憧れるロシア人らしい和声も現れます。本人は『ドビュッシーになんて憧れていない』と言っているようですが、音楽からはそれが感じられるんですよね。意外と似ているところがあるんです。両者のトッカータの聴き比べもおもしろいと思います」
歴史に興味があり、時代背景を調べて曲に取り組むことが好きだという。最近、プロコフィエフと仲の良かったミャスコフスキーを弾き、また理解を深めた。
「プロコフィエフにはあまり知られていない曲も多いですが、楽しめるもの、心に刺さるものなど多様な魅力があります。全6回、有名曲を合わせながら流れのあるプログラムをお届けしたいと思います」
取材・文:高坂はる香
(ぶらあぼ2017年11月号より)
上野優子 ピアノリサイタル プロコフィエフ・ソナタ全曲シリーズ
〜プロコフィエフにはどのピアノがお似合い? 第1回 スタインウェイ〜
2017.12/13(水)19:00 すみだトリフォニーホール(小)
問:フューチャーデザイン03-5206-5501
http://yuko-ueno.com/