垣岡敦子(ソプラノ)

聖母への祈りからオペラまで、様々な“愛”のかたちを歌う

C)Yoshinobu Fukaya (aura)
 イタリアで研鑽を積んだ叙情的で厚みのある声を持つ王道ソプラノとして名高い、垣岡敦子が贈る人気シリーズが11月の王子ホールに登場。「オペラにおける“愛”とは憎しみや欲望と表裏一体となって究極のドラマを生む原動力」と語る彼女だが、決して重苦しい雰囲気はなく、今年もヘンデルの華やかなアリアで幕を開け、バッハやグノーらによる聖母マリアを讃える祈りの歌へと続く流れで、最初から観客の心を掴みそうだ。
「19世紀イタリアのルイージ・ルッツィの知られざる〈アヴェ・マリア〉も歌います。情熱的な旋律に込められた、これもまたひとつの“愛”のかたちですね」
 前半のハイライトはグノー《ロミオとジュリエット》からの名場面。
「ジュリエットのアリアは第1幕の〈私は夢に生きたい〉が有名ですが、今回はピアノの村上尊志さんからのリクエストもあって第4幕の〈ああ、なんという戦慄が〉を。揺れ動く彼女の気持ちを表現するには声のテクニック以上のものが必要ですが、村上さんの伴奏がきっと私からドラマティックな感情をうまく引き出してくれるはず」
 続く二重唱でロミオ役を務めるのは、ダイナミックかつ伸びやかな歌声と189センチの舞台映えする容姿で大器テノールとして期待を集めている古橋郷平(こはしごうへい)。
「お互いに遠慮なく意見を出し合い、一緒にステージを作っていける相手。関西人同士なので相性も抜群(笑)」
 後半はオペレッタの最高傑作のひとつ、カールマン《チャルダッシュの女王》の見せ場アリアから。
「凝った演出で登場しますのでご期待下さい。この1曲で息が上がってしまわないように頑張ります(笑)」
 《アドリアーナ・ルクヴルール》の〈私は神の創造の卑しい僕です〉は作曲者チレアからお墨付きをいただいた名ソプラノ、マグダ・オリヴェーロの解釈で。彼女に師事した現代のディーヴァ、バルバラ・フリットリから直接伝授されたものだとか。
「特に最後の部分で声を張り上げてしまいがちですが、あくまでも慎ましく弱音で終えるのがオリヴェーロ流。とても共感しますね。私もこのように歌います」
 ラストもフランス・オペラで。甘く切ない旋律に彩られたマスネ《マノン》からのアリアと二重唱。
「マスネのオペラはイタリアに居た頃から、なぜか多くのマエストロに薦められてきた気がします。自由で純粋なマノンのキャラクターにはすぐに感情移入できました。ナチュラルな気持ちで演じられるから、とても楽しい」
 フランスものと言えば、来年はドビュッシーのカンタータ「放蕩息子」に挑戦とか。ひきつづき彼女のフランス語歌唱に期待したい。
取材・文:東端哲也
(ぶらあぼ2017年11月号より)

垣岡敦子ソプラノ・リサイタル〜Amore 愛の歌 Vol.4〜
2017.11/30(木)19:00 王子ホール
問:株式会社withクラシック03-6804-9702 
http://www.atsukokakioka.com/