實川 風(ピアノ)

ショパンの本質に近づいた新鋭の“いま”を聴く

C)ミューズエンターテインメント
 ロン=ティボー=クレスパン国際コンクールの第3位、第77回日本音楽コンクールピアノ部門第3位など、国内外で数々の輝かしい受賞歴を誇る實川風。ソロはもちろん、室内楽の分野でも著名な演奏家から厚い信頼を得る彼が、昨年のデビュー盤に続き、オール・ショパン・プログラムによる新譜をリリースする。
「ショパンは内側にありとあらゆる多様性と奥行きを秘めた作曲家なので、難しさを感じていました。ただ、彼の作品にはこれまで最も多くの時間を費やして取り組んできましたし、最も敬愛する作曲家の一人です。現時点でのベストの演奏を残そう、という思いで今回の録音に臨みました」
 ショパンの中でも、「『雨だれ』の前奏曲」や「エオリアン・ハープ」「英雄ポロネーズ」など、いわゆる“名曲揃い”のアルバムとなり、性格小品が多いためか、全体的に物語性や世界観が映し出された構成となっている。どのような意図で選曲したのだろうか。
「全ての曲が滑らかに一つのつながりを持つように調性の配列をよく考慮して選曲・配置しました。どの曲もすでに多くの名ピアニストの演奏がたくさん残されているので、録音には勇気が必要でしたが、これらの作品には、親しみやすさと、何度聴いてもありふれたものにはならない奥行きがあるので、作品の魅力を引きだす演奏ができれば、と取り組みました」
 ショパンならではのリズム感や感性が込められたマズルカ、ワルツ、そしてポロネーズはいずれもその特有なリズム感を掴むのが難しい。しかし實川の演奏はとてもしなやかに、これらを手中に収めている。
「日本人である私がマズルカやワルツなどを弾くのは、外国の方が盆踊りを踊るのと同じようなものですから、とにかく身体がそのリズムになじみ、勝手に動くようになるくらいまで努力しました。実は、マズルカはショパンの全作品の中で一番好きなジャンルでもあるのです」
 實川の演奏は明晰な音楽づくりが魅力的で、今回のショパンにもそれがよく活かされているが、レコーディングを通して気づかされたことがあったという。
「ショパンは誰かに聴かせるためではなく、自分自身のために日記を綴るように作曲をしたのではないか、と改めて感じました。それからは以前よりもショパンの音楽に自然に寄り添えるような感覚になったのです。“伝えよう”というエゴのようなものから解放されてフレキシブルな気持ちで取り組むことで、ショパンに近づけた気がします」
 自身と対峙することでショパンの音楽の本質に近づいた實川の“いま”を記録したショパンアルバムからは、耳馴染みのある名曲たちから新たな空気や香りを感じることができるはずだ。
取材・文:長井進之介
(ぶらあぼ2017年8月号より)

實川 風 ピアノ・リサイタル
2017.7/20(木)12:00 ルネこだいら
問:小平市文化振興財団042-345-5111
http://www.runekodaira.jp/

CD
『實川 風/プレイズ・ショパン』
アールアンフィニ
(ソニー・ミュージックダイレクト/ミューズエンターテインメント)
MECO-1040(SACDハイブリッド盤)
¥3000+税 
2017.7/19(水)発売