トッパンホール17周年記念 バースデーコンサート シュニトケ&ショスタコーヴィチ プロジェクト1――室内楽


 体制がもたらす歪みと闘いながら、芸術作品を生み出す…これはいかなる結果を導くのだろうか? かくもシリアスなテーマを抉り、旧ソ連の超ディープな作品のみを聴かせる公演が、トッパンホールの「シュニトケ&ショスタコーヴィチ プロジェクト1——室内楽」。これがシーズン開幕&バースデーとは、まさに同ホールの面目躍如だ。
 まずはショスタコーヴィチのヴァイオリン・ソナタ。オイストラフ60歳の誕生祝いに書かれながら、悲劇的な表情に包まれた、辛口ゆえに実演が少ない名作だ。次いでシュニトケのピアノ五重奏曲。急逝した母を悼む悲痛な心象の中に透明な抒情美が滲んだ、同作曲家の最高傑作である。最後はショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲第15番。亡くなる前年作の同曲は、全6楽章が変ホ短調のアダージョという異様な構成と、究極に切り詰められた音を通して、闘い続けた天才の死への思念が切々と綴られる。
 ヴァイオリンは、強靭かつ鋭利な表現を持ち味とする山根一仁。彼は、トッパンホールのシリーズ〈エスポワール〉でも両作曲家を演奏し、成果をあげている。ピアノは、知的かつ繊細なアプローチが光る北村朋幹。山根とは絶妙なコラボを展開しており、その音色とセンスは、ピアノが重要なシュニトケ作品にも相応しい。そしてモルゴーア・クァルテット。1992年の結成以来、ショスタコの弦楽四重奏曲の全曲演奏を再三完遂してきた彼らは、一朝一夕では成し得ない深みを表出し、20代の二人にも良き示唆を与えるに違いない。
 呼吸もできないほどの緊張感が張り詰めた音楽の深淵…ときにはそんな時間に浸るのもいい。
文:柴田克彦
(ぶらあぼ 2017年8月号から)

2017.10/1(日)17:00 トッパンホール
問:トッパンホールチケットセンター03-5840-2222 
http://www.toppanhall.com/