白石光隆(ピアノ)

30回は“節目”ではあるのですが“通過点”でもあります

C)岩切 等

 美しい音と生き生きしたリズム感を最大限に活かし、ソロにアンサンブルにと幅広く活動を展開するピアニスト、白石光隆。多忙な日々を送る中、1年間の活動の集大成として毎年定期的に開催するソロリサイタルが第30回という節目を迎える。
「ピアニストとして活動させていただく中で、環境はだいぶ変化してきました。このリサイタルを私の中の“変わらないもの”として大切に続けています。ですから、今回はもちろん“節目”ではあるのですが、“通過点”でもあります」
 今回のプログラムはバッハにフォーレ、ベートーヴェンにシューマン、そしてプロコフィエフなど多岐にわたる時代の作品が選ばれた。
「毎回リサイタルはたくさんの方に楽しんでいただけるような選曲を心がけつつ、挑戦の意味も込めて基本的には“初出し”の曲を演奏しています。今回は以前から弾いてみたかったフォーレの『主題と変奏』とシューマンの『謝肉祭』を中心に組みました。試行錯誤しているうちに、前半は変奏曲やソナタなど形式の整った作品、後半は標題的な作品ということでまとまりました」
 フォーレの「主題と変奏」は、教会音楽として書かれたものではないが、最初に弾かれるバッハのコラール(ケンプ編「目覚めよと呼ぶ声あり」)からのつながりもあり、やや内省的な作品の雰囲気からは信仰心に近いものが感じられる。
「『主題と変奏』はテーマに11の変奏が続きますが、最後は嬰ハ長調となり、シャープが7個もつきます。私は調号が増えるほどに現実から遠いものを感じます。ぜひ聴いてくださる方にも非日常の世界に浸ってもらえればと」
 後半にプロコフィエフの「悪魔的暗示」が置かれたことで、プログラムに“形式”と“標題”とは別に、“神”と“悪魔”という対比もできた。
「最初は『《シンデレラ》からの6つの小品の〈ワルツ〉』から舞踏的な要素の強いシューマンの『謝肉祭』につなげようと思っていたのですが、プロコフィエフの亡命前と亡命後の対比も描きたかったので間に『悪魔的暗示』も入れました」
 白石がこれだけの多彩なレパートリーを演奏できたのには、楽譜と向き合う時間を大切にしてきたことが大きい。
「演奏をするにあたっては、楽譜に書かれていることやその美しさをお客様にわかりやすくお伝えすることを大切にしています。そのためにはただ弾くだけではなく、じっくりと読み解く作業がとても重要になります」
 白石光隆の“節目”となるリサイタル。多彩な選曲とそこに生まれる対比を堪能しながら、彼の止まらない“挑戦”を見届けたい。
取材・文:長井進之介
(ぶらあぼ 2017年8月号から)

白石光隆 ピアノリサイタル Vol.30
2017.9/6(水)19:00 東京文化会館(小)
問:プロアルテムジケ03-3943-6677 
http://www.proarte.co.jp/