高田正人(テノール)

ピンカートンの若々しく情熱的な響きをお聴かせします

 爽やかな声音と人間味溢れるキャラクターで注目のオペラ歌手、高田正人。上背ある舞台姿ゆえに、色男役が多いテノールだが、その高田が3月にヨコスカ・ベイサイド・ポケットで演じるのが《蝶々夫人》の海軍士官ピンカートン。ハイライト版の上演ながら、情熱的な聴きどころはたっぷりと用意されている!
「以前、ニューヨークに留学していた時に“常にハッピーであり、他者に寛容でありたい”というアメリカ人の美学を感じました。ポジティブに、なんでも受け入れようとする姿勢で物事に向かう人々ですね。ピンカートンは陽気で単純な気性の持ち主です。蝶々さんも彼の“悪意のなさ”に惹かれたのでしょうか。物事を深く多面的に見るタイプではなく、行動も軽率ですが、まあ、彼と同世代の若き軍人たちも、当時は同じようなことをしていたのだと思います」
 言葉を選んでゆっくり語る高田。その面差しには、オペラの役柄をじっくり解釈しようという誠実さが覗く。タイトルロールを歌うのは小川里美。
「一方の蝶々さんですが、一人の男性と添い遂げたいという彼女のまっすぐな思いは、本質的には今の日本人女性にも通ずるものがあると思いますね…。話はちょっと違いますが、オペラ鑑賞教室などで《蝶々夫人》を上演すると、ふだん威勢を張ってカッコつけているような(笑)高校生たちも、男女関係なく、終演後に涙ぐんでいたりします。時代も世代も超えて伝わるドラマだと改めて思うのです。ちなみに、ピンカートンは、イタリアではテノールが舞台デビューで歌うことが多い役です。留学先の先生に『音が重いのに何故でしょうか?』と尋ねたところ、『ピンカートンは若くてシンプルな人間性の持ち主だし、登場の自由奔放なアリアから蝶々さんとの愛の二重唱までは、特に若々しい響きで聴かせなければならない。君の声にも合うよ!』と言われました。後半では彼も成長し、スズキやシャープレスと“悔悟の三重唱”を歌いますが、でも、最後のアリア〈さようなら愛の巣よ〉にはセンチメンタルなところが残っていて…そこもピンカートンらしいな、と」。
 今回は約400席の緊密な空間での上演。エレクトーン(清水のりこ)が多彩な音色を駆使して伴奏する。
「エレクトーンだと、音の波に乗る感じで心地よく歌えます。それに、名作オペラをほどよいサイズの空間で観ていただくと、歌い手の表情や動きが細部までご覧いただけますし、舞台の我々もお客さまの視線を感じたり、表情に心動かされたりするのです。ベイサイド・ポケットの舞台に立つたびに、客席と一緒にドラマを作っていける場だと実感します。《蝶々夫人》、ぜひご覧ください!」
取材・文:岸 純信(オペラ研究家)
(ぶらあぼ 2017年3月号から)

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プッチーニ:《蝶々夫人》(原語上演/ハイライト版)
3/12(日)16:00 ヨコスカ・ベイサイド・ポケット
問:横須賀芸術劇場046-823-9999
http://www.yokosuka-arts.or.jp/

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