伊藤理恵(ピアノ) 深化する響き mit Bösendorfer

ベートーヴェンの精神世界に迫る

©reiko.hayakawa
 折りごとに自己の内面と対話し、作品への深化の度合いを高めてゆく異色のピアニスト、伊藤理恵が今年、「自分の心に最も近い」3人の作曲家を取り上げるリサイタル・シリーズをスタート。その第1回のテーマにベートーヴェンを選び、「ハンマークラヴィーア」「テレーゼ」「月光」という3つの名ソナタを通じて、その精神世界を掘り下げる。
 「あたかも32人の違った人間のように異なる個性を持つ、ベートーヴェンのピアノソナタ。まず意識したのは、ベートーヴェンの様々な顔を知ってほしいということです」と伊藤。「“眉間にしわを寄せた偉大な楽聖”という印象だけでなく、ユーモアと人間味にあふれた、血の通った作曲家像を感じてほしい」と言う。
 国立音楽大学ピアノ科を中退し、一般職に従事するも、指揮で音楽活動を再開。ピアノでのソロ活動も開始し、個性的な音楽創りで大きな話題に。数年間の活動休止を経て、2011年に演奏活動を再開し、写真家としても独自の表現を追究。銘器ベーゼンドルファーを弾く当シリーズでは、7月にシューベルト、10月にブラームスの披露を予定している。
 「『ハンマークラヴィーア』には、作曲家の全人生が詰め込まれていて、演奏にはかなりの覚悟を必要とします。相反する様々な要素が混在する、晩年の様式の極みです。畏敬の念と感謝を持ちつつ、広大な音の森に分け入りたい」と語る。
 一昨年12月に東京・立川市にオープンした約100席のCHABOHIBA HALL(チャボヒバホール)を会場に選んだのも注目だ。
文:笹田和人
(ぶらあぼ 2017年3月号から)

3/12(日)14:00 CHABOHIBA HALL
問:春渓プロモーション090-6008-9240
http://www.facebook.com/Rie-Ito-1713796538934015/