スペインの空気を音に込めて
「この子供たち、私が住んでいる寮にいつもやって来て遊んでいるんです。大騒ぎしている声を聞きながら窓を開けて練習していたので、その声とギターの音が一緒になって私の記憶に残っています」
愛用している二眼レフカメラの名器「ローライフレックス」で撮影した笑顔の少年たちを見ながら語る朴葵姫は、今年の1月から約半年間、スペインのアリカンテという街へ留学。地中海に面したバレンシア地方で学びつつ、周囲の街なども訪れてさまざまな“スペインらしさ”を感じ取ったという。伝説的な名手セゴビアの魂も伝えられるその地で、じっくりとギター、そして音楽への探求を深めた彼女は、帰国後に積極的な活動を再開。11月には留学の成果を伝えるリサイタルを、東京文化会館の小ホールで開く。
「留学前には音楽などから想像するしかなかったスペインの空気でしたが、生活の中で人やスピリットに触れることができ、いろいろなことがクリアになりました。大好きだったアルベニスの曲をもっと理解しようとセビリアやコルドバの街を訪れたり、スペインで長く暮らしたD.スカルラッティの音楽には、市場の声や子供たちの遊び声なども反映されていると教えていただいたり、人々の大きな声や言葉のイントネーションさえも音楽へつながっていることを実感したのです。帰国してからソロや室内楽、ギター・クァルテット、オーケストラとの共演などさまざまな演奏機会をいただきましたが、以前より私の演奏を知っている方々からは『音楽が変わった』と言っていただきました」
リサイタルでは、そのD. スカルラッティやアルベニスの名作も含め、J.S.バッハの「シャコンヌ」、スペイン・ロマン派の作曲家であるタレガ、さらには難曲ゆえにまだ日本でも弾くギタリストが少ないというブローウェルのソナタなどが並ぶ。
「バロックの曲はアーティキュレーションや即興などを他の楽器からも学び取り、自分なりの演奏を目指しています。D.スカルラッティは編曲も試行錯誤しながら自分でしており、いろいろな先生方にアドバイスをいただきました。ブローウェルの『旅人のソナタ』は曲を献呈されたオダイル・アサドさん(アサド兄弟の弟)にいろいろなヒントをいただけたこともあり、自分にとっての大きなチャレンジだと思って弾きます」
リサイタル後半のアルベニスも、留学後の今だからこそ輝く演奏になるはず。秋の深まる時期に、音楽でスペインの香りを堪能できる午後になるだろう。
取材・文:オヤマダアツシ
(ぶらあぼ 2016年11月号から)
朴 葵姫 ギターリサイタル 〜スペインの記憶〜
11/19(土)14:00 東京文化会館(小)
問:コンサートイマジン03-3235-3777
http://www.concert.co.jp