「祈り」をテーマにバッハや古今の名作たちと真摯に向き合う
現在は演奏活動を行いながら、東京芸大で後進の指導に当たっているオルガンの廣江理枝。フランスのシャルトル大聖堂や武蔵野市などの国際コンクールでの優勝実績を持つ実力者で、9月に行われる神奈川県民ホールでのリサイタルは、「祈り」をテーマにしたプログラムだ。
「県民ホールの委嘱作品として新作をお願いした小鍛冶邦隆先生が、他のプログラムとリンクさせたいから、できればバッハの、元に歌詞がある曲を弾いてほしいとおっしゃるので、『天にまします我らの父よ BWV682』というコラール編曲を選びました。キリスト教徒なら誰でも知っている『主の祈り』です。そこから発想を広げて考えている時に熊本の震災があり、『祈り』で統一するプログラムに決めました」
その祈りは、神だけに向けられるわけではない。
「何かに祈るという行為は、どなたにも経験があることだと思います。たとえば最後に弾くデュリュフレの『アランの名による前奏曲とフーガ』は、第二次大戦で亡くなったオルガニスト仲間ジャン・アランのために書いた曲です」
自身もドイツで洗礼を受けたプロテスタント。しかし教会音楽だからといって、キリスト教信者が弾かなければならないわけではないのだという。
「ただし難しいのは、やはりどうしても、神学的なシンボリズムなどと切り離せない音楽だということです。それをまったく知らずに弾くのは難しいと思います」
県民ホールのオルガンは、バロック作品にしっくりくるイメージだそう。
「一つひとつのパイプがとてもよく鳴り、個性が際立って歌います。それはバロック作品にふさわしい特徴なのです。一方で、このパイプたちを同時にたくさん鳴らす、ロマン派以降の作品に向いた音色作りも、もちろん可能です。ひとつの楽器でたくさんの音響世界を作り出す面白さも楽しんでいただけると思います。また、ホールで練習させていただいて感じたのは、良い演奏家に弾かれている楽器だな、ということです。よく弾かれているかそうでないか、弾いてみればすぐにわかるんですよ。愛されている楽器なのですね」
通っていた中学の入学式でオルガンに魅せられたのがきっかけで、桐朋のピアノ科を卒業後、結局はオルガンを選び東京芸大とドイツでオルガンを学んだ。「導かれたのかな、と思います」と笑う。彼女を虜にしたオルガンという楽器の魅力に、そのホームグラウンドとも言える教会や祈りとの関連の中でたっぷりと浸るリサイタル。あなたもきっとオルガンに夢中になるはずだ。
取材・文:宮本 明
(ぶらあぼ 2016年9月号から)
9/24(土)15:00 神奈川県民ホール(小)
問:チケットかながわ0570-015-415
http://www.kanagawa-arts.or.jp