今年もクロアチアの秘曲に酔いしれてください
国立ザグレブ大学音楽アカデミーでピアノを学び、現在は「日本クロアチア音楽協会」代表としての活動にも熱心な安達朋博。特に20世紀初頭に活躍した同国初の女性作曲家ドラ・ペヤチェヴィッチの作品を発掘し、その魅力を現代に伝えた功績は大きい。今年も彼女の誕生日である9月10日にゆかりの地ナシツェで記念演奏会(会場は実家の伯爵家別邸)を行う予定で、それに合わせた日本からのスペシャルな観光ツアーも企画されている。帰国後には6年目となる杉並公会堂でのリサイタル(9月23日)を開催。こちらも通好みのプログラムで知られ、毎回熱心なファンが会場を埋め尽くしている。
「オープニングは2012年の回で日本初演したペヤチェヴィッチのピアノ・ソナタ第1番。第一次世界大戦が勃発した年に書かれた作品だけに、どこか暗い陰があり、特に第3楽章の旋律が耳に残ります」
今年は後半の頭に、クロアチアの知られざる現代音楽の作曲家2人の作品をとりあげる(日本初演)のも注目。
「雰囲気は対照的ですが、どちらの作品にもすぐ心を奪われました。早くから国外で活動を続け、それゆえにこれまで知られることのなかったダヴォリン・ケンプの『蝶の光』は、独自の音楽イディオムに彩られたファンタジックな楽曲。明確な旋律はありませんが響きがキラキラとして美しい。一方のムラデン・タルブクはクロアチア放送交響楽団の指揮者でもあり、今回演奏する『愛する人の口づけ』は、様々な相手とのキスを音楽で描いたユニークなシリーズのひとつ。激しい連打のある情熱的な後半などが聴き所かもしれません。ただ少し難しい部分もあるので、ザグレブに行った時に実際に会って助言をもらおうかと思っています。いつかシリーズの全曲をとりあげてみたいですね」
前半にプーランク「ナゼルの夜会」、後半にラフマニノフのソナタ第1番などが配されているのも楽しみだ。
「以前から弾きたいと思っていたプーランクの曲は、即興的でちょっぴりエロスを感じさせる雰囲気が好きです。ラフマニノフの1番はドラマティックな2番と比べると地味で人気もいまひとつですが、楽章ごとに物語を持っている気がして昔から愛奏していました。自分の中でオペラのように広がる豊かなイメージを放出したいです!」
会場では、昨年の公演(ペヤチェヴィッチのピアノ協奏曲)をライヴ録音したCDの先行発売も。来年はデビュー10周年、今後の活躍がますます気になる。
取材・文:東端哲也
(ぶらあぼ 2016年9月号から)
9/23(金)19:00 杉並公会堂
問:ヴォートル・チケットセンター03-5355-1280
安達朋博公式ウェブサイト
http://tomohiroadachi.com