“1842年”のシューマンに何が起こったのか?
1842年、31〜32歳のロベルト・シューマンによって作曲された室内楽曲群(5曲)を、2日間で一気に聴くという『シューマン・プロジェクト 1842』。フランスの俊英としてすでに何度も来日公演を行い、ラ・フォル・ジュルネ音楽祭の常連でもあるモディリアーニ弦楽四重奏団が仕掛け、再評価を促す2日間である。自分たちも楽しみだと目を輝かせる第2ヴァイオリンのロイック・リョー(写真右端)は、この5曲について「1842年のわずかな期間で変容を遂げたシューマンに近づき、心情を追体験するプログラムだ」と語る。
「この素晴らしい5曲が次々に生まれた1842年、シューマンはピアニストとしての道をあきらめ、作曲家として生きていこうと考えていました。しかし作曲は行っていたものの作品に関して自信はまだなく、不安に満ちていたはず。そんなときに妻のクララは演奏活動で家を空け、気持ちをぶつける相手もいない。クララはピアニストとしてますます評価が高まり、自分との格差は増すばかり。そうした中で作曲された3曲の弦楽四重奏曲は、不安から解放へと向かう道筋を追体験できる作品なのです。第1番はまだ偉大なベートーヴェンなどから受け継いだ遺産の重さに当惑し、第2番ではもがきながらも自分の表現を模索し、第3番になると未来への扉がようやく開くわけですね。結果として1842年はシューマンにとって意味のある1年になったことでしょう。彼に限らないことですが、作曲家たちは人生の転換期に素晴らしい弦楽四重奏曲を残していると思っています」
日本においてシューマンの弦楽四重奏曲は、決して誰もが知る存在ではないため、まさに再評価・再認識のチャンスを得たと言える。続けて同じ年に書かれたピアノ五重奏曲および四重奏曲も、単独で聴く場合と違って弦楽四重奏曲との関係性に光が当てられるはずだ。
「3曲の弦楽四重奏曲で自信がついたシューマンは、安心してクララ(ピアノ)を迎え入れることができたと思います。この2曲は彼なりの愛情表現ですね。今回はアダム・ラルームという、音楽的に信頼し合えるピアニストと共演しますが、ピアノ四重奏曲の場合は弦楽三重奏がピアノとの関係を模索し、ピアノ五重奏曲の場合は弦楽四重奏をピアノとどう融合させていくかについて気を配らなくてはなりません。彼の室内楽曲では、特に私が受け持つ第2ヴァイオリンのパートに顕著なのですけれど、音が中音域へ凝縮されているのです。演奏は大変ですが、それもまたシューマンの抑圧された心情を表しているのかと思うと、意義深いものですね」
シューマンの人生における一コマにじっくりと寄り添う2日間は、濃密な音楽体験となるはずだ。
取材・文:オヤマダアツシ
(ぶらあぼ + Danza inside 2016年7月号から)
モディリアーニ弦楽四重奏団 with アダム・ラルーム
〜シューマン・プロジェクト 1842〜
第1日 9/22(木・祝)15:00 弦楽四重奏曲第1番・第2番、ピアノ四重奏曲(完売)
第2日 9/23(金)19:00 弦楽四重奏曲第3番、ピアノ五重奏曲
王子ホール
問:王子ホールチケットセンター03-3567-9990
http://www.ojihall.jp