ウィリアム・クリスティ(指揮)

“愛”こそが、バロック音楽の最も重要なテーマです

 ©Jean-Baptiste Millot
©Jean-Baptiste Millot

10年振りの来日公演

 パリを拠点に、瑞々しいサウンド創りで古楽界をリードし、特に埋もれたバロック・オペラの蘇演で大きな成果を収めてきた、ウィリアム・クリスティ率いる器楽&声楽アンサンブル、レザール・フロリサン。
 彼らが今秋に10年振りの来日を果たし、『イタリアの庭で〜愛のアカデミア』と題して、バロックから古典にかけてのイタリア語歌詞による彩り豊かな声楽作品をたっぷりと聴かせる。
「今回目指すのは、17世紀末から18世紀にわたる、イタリア音楽の多彩な様相を描き出すこと。その上、歌手たち一人ひとりの個性が際立つような、“愛”をテーマに織り上げたプログラムになっています。言うまでもなく、“愛”こそが、バロック音楽の最も重要なテーマですから」

イタリア語という“窓”から見た欧州音楽史

 その言葉の通り、ストラデッラやヴィヴァルディといったイタリアの作曲家にとどまらず、ヘンデルやハイドン、モーツァルトによる歌劇やオラトリオなどからも選曲。
 “イタリア語の歌詞”を縦糸に、“愛という感情表現”を横糸に、巧みに織り上げられたステージとなっている。それは、さながら「イタリア語という“窓”から見た欧州音楽史」の感も。言語に対して鋭敏な感性を磨いてきた、彼らに最も相応しいテーマと言えよう。
「私はもともと、“言語”が好きなのです。仕事では専らイタリア語、フランス語、ドイツ語を使いますが、とても満たされているし、楽しいですね。音楽だけではなく、これらの言語によるコミュニケーションや真意、メッセージを美しく伝えることも、非常に大切だと考えています」

若手の溌剌とした魅力が満載

 2002年から、若い歌手たちを対象とするアカデミー「声の庭」を主宰。実は、今回も、その第7弾の成果であり、若手の溌剌とした魅力がはじけるステージになるだろう。
「私たちは、才能ある若い人たちに世界中で歌う機会を与え続けていますが、今回のプログラムも欧米や豪州で既に上演し、大いに好評を得ました。日本でもお披露目できるのは光栄で、幸運に感謝しています」

作曲家に対して誠実であり続ける

 また、「バロック音楽の上演に、古楽器は必須。作曲者が熟知していた楽器であり、バランス上の問題も起きにくいですから」と断言。レザール・フロリサンの音楽監督としての活動は37年目に入ったが、「常に対話と言語を慈しみ、音楽の流れの中で感性を研ぎ澄ませ、音楽の色彩を豊かにするよう心がけて、作曲家たちに対して誠実であり続けて来ました。これからも、決して変わることはないでしょう」と自信を覗かせる。
 演奏の上で最も大切なことは「音楽で何をすべきか、きちんと目的意識を持つこと。つまり、音楽自体と堅固で能動的な関係を保つこと」だと強調する。
 また、この6月19日には、ライプツィヒ・バッハ音楽祭の閉幕コンサートで、「ミサ曲 ロ短調」の上演が控えている。
「途方もない力を湛えた、深遠で哲学的な音楽。ただ感じるまま演奏するに尽きますが、作曲者が眠る聖トーマス教会での経験は、貴重なものとなるでしょう」
 最後に、これからの展望について尋ねてみると「オペラを上演し、若手を育てて…基本的には、これまでやってきたことに取り組み続けます」という返事が返ってきた。淡々とした言葉の向こうに、大いなる確信が滲む。
取材・文:寺西 肇
(ぶらあぼ + Danza inside 2016年7月号から)

ウィリアム・クリスティ & レザール・フロリサン
「声の庭」 第7弾 イタリアの庭で〜愛のアカデミア
10/13(木)19:00 サントリーホール
問:アスペン03-5467-0081 
http://www.aspen.jp