上原彩子(ピアノ)

プレリュードに聴くロシア2大作曲家の世界観

 同時代のロシアに生まれたラフマニノフとスクリャービン。卓越したピアニストでもあった2人による前奏曲を集めたプログラムで、上原彩子がリサイタルを行う。
 前半は、「ラフマニノフが結婚して子供が生まれた頃に書かれた、比較的明るい雰囲気のある」「10の前奏曲 op.23」からの4曲と前奏曲「鐘」、スクリャービン「24の前奏曲」。そして後半は「ひねりの効いた暗い作品が目立つ」ラフマニノフ「13の前奏曲 op.32」を置く。前後半で異なる空気を持つ内容だ。
「今後はラフマニノフのいろいろな作品の録音に取り組みたいと考えていた中で、まずは長く弾き続けてきた前奏曲から始めようと思いました。リサイタルは変化のあるプログラムにしたいので、まったく異なる世界を持つスクリャービンの前奏曲を合わせてみようかと。どちらも子供のときから大好きな作曲家です」
 小学4年生からロシアの名教師、故ヴェラ・ゴルノスタエヴァの指導を受けていた上原は、当時からスクリャービンの後期作品を聴かされていた。「完全に理解できないながらも、空想の世界に入っていくような音楽に惹かれていた」という。
「飛翔するような音楽が好きで、どこかシューマンに近いものを感じていました。個性的で、調性の感性も独特。彼に似た作曲家は他にいません。今回演奏する前奏曲は若いころの作品なので、そこまで“振り切れて”はいませんが、空に昇っていくような音楽が魅力です」
 それに対してラフマニノフには、「大地に降りて、深く掘り下げていくような」逆のイメージがあるという。
「ラフマニノフのほうが現実的な性格だったのでしょうね。音色も重いものが求められます。自身が優れたピアニストだったため、とにかく音が多いですが、それをすべて同じ大きさで鳴らすと意味がわからなくなる。会場に合わせてうまくコントロールして弾かなければなりません。尊敬するピアニストであり、チャレンジし続けたい作曲家です。演奏する際の“呼吸”についても、ラフマニノフが深いのに対して、スクリャービンは軽い呼吸で前に進んでいきます。同時代に同じ場所で学んだのに、これだけ違う音楽を生んだというのがおもしろいですね。2人の作品を並べて聴くことで、そんな性格の違いを改めて感じていただけたら」
 最近はフォルテピアノでモーツァルトを弾く演奏会も経験し、「こうした機会がロシアものを弾く上での土台を固めている」と語る。3児の母としても忙しい毎日を送る彼女だが、演奏家としてのバイタリティーは増すばかり。今度の公演ではどんな新しい顔を見せてくれるだろうか。
取材・文:高坂はる香
(ぶらあぼ + Danza inside 2016年5月号から)

上原彩子 プレリュードを弾く
6/3(金)19:00 東京オペラシティ コンサートホール
問:ジャパン・アーツぴあ03-5774-3040
http://www.japanarts.co.jp