平山素子(振付家・ダンサー)

“ダンスとリズム”の根源に迫る


 日本のダンスシーンの最前線をひた走る平山素子。2008年の『春の祭典』でストラヴィンスキーの代表作を鮮やかに視覚化し、13年の『フランス印象派ダンス Trip Triptych』ではラヴェル、ドビュッシー、サティの名曲を用い洗練の極みといえる秀作を放った。
 新国立劇場で行う「音楽シリーズ」待望の新作『Hybrid-Rhythm & Dance』ではスペインとアイヌの伝承音楽と共演し“ダンスとリズム”の根源に迫る。
「コンテンポラリーダンスは、今の時代に自然発生的に湧きあがっているようなものですので縦の直線に弱い。日本の伝統音楽の方と共演したりする中で、古典的手法を守りながら新しいものに取り組む強さに憧れていました」
 音楽・演奏はスペイン・バスク地方の伝統打楽器「チャラパルタ」を奏でる男性二人組のオレカTX(ギター&バスクの角笛「アルボカ」の奏者も加わり4名で来日)。そこにアイヌ民謡「ウポポ」を受け継ぐ床絵美(とこ・えみ)の唄が入る。スペインと北海道でのリサーチも行った。
「オレカTXはバスク地方の音楽を伝承しつつ、それを新しくアレンジしています。『チャラパルタ』は縦に打って演奏するスタイルで、自然と体が動くため躍動感があります。床さんにはヴォイスの方と身体をがっちり絡めてみたくて各方面に相談しているうちにたどり着きました。手拍子しながら10秒くらいで終わる唄を繰り返す。シンプルな旋律と反復、そして響きだけの中に、いつしか豊かな色彩が広がる感覚があるんです」
 出演者は平山の他、小㞍健太、OBA、鈴木竜、皆川まゆむ、西山友貴という気鋭が揃う。
「この人とこの人を混ぜたらどうなるだろう?予想の成り立たない目線を基準に選びました。リハーサルでは『何をするんですか?』といった質問はなく、私が『こういう感じかな』と言うと皆黙々と動いてくれるので凄くうれしい状況です」
 公演名『Hybrid』に込めた思いとは?
「種の違うものを掛け合わせて新種を誕生させるという語源が気に入りました。コラボレートしたいのではなく新種を誕生させる。決意表明みたいなものですね」
 03年以降新国立劇場で継続的に作品を発表してきた。
「毎回チャレンジングな企画をいただき、それに立ち向かい乗り越えようとして進み続けてきました。モノを創ることへの深い興味と責任感が芽生える機会をいただき感謝しています」
 今まで以上の挑戦に挑むと自負する。
「やり辛いことでもそれが必要だと思ってやっています。上手くいく方法を一度切り捨てる。音楽に関してもプリミティヴでありながら、アヴァンギャルドというかコンテンポラリーな音を求めています。手法やテクニックではなく、もう少し別な所から降り注ぐものでハイブリッドしませんか?と。今までの上に積み上げるのではなく全然違う矢印をビュンと出したい。受け入れられるのかという不安もありますが、不安な要素に向かっていないと本当の創造は達成できないのではと思っています」
 これに先立ち3月12、13日には新国立劇場バレエ団のダンサーが創作発表する『DANCE to the Future 2016』のアドヴァイザーも務める。
「アイディアを舞踊作品として上演するまでのプロセスにおいて、まずは自分の失敗談を伝えてあげたい。『創れてよかった!』で終わるのではなく、『まだまだいける』を探り続ける。創り出すからには今の自分を反映すると同時に、未来に向けて新鮮な芸術を発信する決意をみせてほしいですね」
 シンクロナイズドスイミングとフィギュアスケートの日本代表選手の指導を手がけるなど、ダンス以外の活動の幅も広げている。
「一見異業界のように見えても“創造”という名の真剣勝負があり、新しいものを生み出したいと願うならば自分の中では同列です。モノ創りの現場に居続けることが重要です」
 今後の展望については、「どこへ行くのかは『Hybrid』をやってみないと分かりません」としながらも、「意外な所に行くかもしれない。『この道を走るぞ!』とは決めていないので、一回やってみて違うハイウェイに乗り換えるくらいの覚悟はあります」と力強く語る。
取材・文:高橋森彦 写真:武藤 章
(ぶらあぼ + Danza inside 2016年3月号から)

『Hybrid-Rhythm & Dance』
3/25(金)〜3/27(日) 新国立劇場(中)
『DANCE to the Future 2016』
3/12(土)、3/13(日)各日14:00 新国立劇場(中)
問:新国立劇場ボックスオフィス03-5352-9999
http://www.nntt.jac.go.jp/dance