「50歳は私の新たな門出。敬愛するアルトゥール・ルービンシュタインやスヴャトスラフ・リヒテルのように、息の長い演奏活動を可能な限り続けたいです」
そう語るのは、日本を代表するピアニストで、2015年に50歳を迎えた若林顕。近年はライヴと録音の双方で充実が著しく、夫人の鈴木理恵子(ヴァイオリン)と共演した最新盤『モーツァルト:ヴァイオリン・ソナタ集 Vol.1』(オクタヴィア・レコード)も好評を博している。また、ソロ活動では14年1月にサントリーホールの大ホールで公演を行って成功を収めた若林。16年1月に同じ舞台に再び登場することが決定した。日本人ピアニストがこの音楽の殿堂でソロ・リサイタルを開くのは極めて稀。しかも、それがあまり間をあけずに続けてだから凄い。
プログラムは、ラフマニノフ「コレルリの主題による変奏曲」、ショパン「練習曲 op.25」(全曲)、ベートーヴェンのソナタ「ハンマークラヴィーア」。いずれも「今、最も弾きたい作品」だという。
「20〜30代は技巧にこだわる傾向が強かったのですが、40代頃から作品の全体図や精神的な要素などにも気を配れるようになってきました。心身のバランスがとれた今、まさに弾きたいのが、この技巧的かつ精神的にも深い3曲なんです」
ラフマニノフやショパンのように民族的要素の強い作品の解釈では、鈴木理恵子から多くの示唆を得ているそうだ。
「様々な民族音楽に造詣が深い彼女のおかげで、これらの作品の核心にさらに一歩踏み込めた気がします」
ショパンの練習曲は全12曲からなるが、若林は、そのゆったりとした佇まいから「チェロ」とも呼ばれる第7番が作品の肝だと語る。
「オペラの二重唱のように寄り添ったり、反発し合ったりする2つの旋律。それに情熱的な中間部や後半の切ない沈黙などは、まるでショパンの人生のようですね。彼の作品には今後集中して取り組みたいと思っているので、その記念すべき一歩になればと思います」
そしてトリを飾る「ハンマークラヴィーア」。あらゆるピアノ作品の中でも最も長大で、演奏困難と言われる大曲の一つだ。
「技巧的に超高難度の第4楽章のフーガは作品のクライマックスですが、だからこそ深遠な思索に満ちた第3楽章のアダージョを大切に弾きたい。この作品と同じ世界観を感じる『第九』や『大フーガ』なども多角的に学びながら、よりいっそう深さと強さ、そして輝きを増した演奏をお届けできるように頑張ります」
取材・文:渡辺謙太郎
(ぶらあぼ + Danza inside 2016年1月号から)
若林 顕 ピアノ・リサイタル
2016.1/30(土)18:00 サントリーホール
問:コンサートイマジン03-3235-3777
http://www.concert.co.jp