バッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)は、10月半ばに発表していた2027-28シーズンのラインナップについて、10月31日東京オペラシティ コンサートホールでの第175回定期演奏会の開演前に、首席指揮者・鈴木優人から会場の聴衆に直接、詳細が紹介された。

「マタイ受難曲」初演300年に贈るバッハの傑作群
BCJの公演年度は、例年通り受難節から始まる。聖金曜日にあたる3月26日、聖土曜日にあたる3月27日の2日間にわたり、音楽監督・鈴木雅明の指揮でバッハ「マタイ受難曲」が演奏される。2027年は、1727年の初演からちょうど300年にあたる年だけに、演奏側にとっても聴き手にとっても特別な思いで臨むステージとなりそうだ。ベルリンを拠点に活躍する吉田志門がエヴァンゲリストを務め、ハナ・ブラシコヴァ(ソプラノ)やティム・ミード(アルト)といったBCJの常連メンバーに加え、初登場のフロリアン・シュテルツ(バス)も海外から駆けつける。
バッハの大作では、27年7月に鈴木優人の指揮で演奏される《ミサ曲 ロ短調》も注目だ。作曲家が最晩年にまとめ上げたこの作品は、いわば声楽書法の総決算とも言うべきもので、合唱の各声部が複雑に絡み合い、壮麗な響きから深い祈りまで、曲ごとの鮮やかな対比も聴きどころ。マリアンネ・ベアーテ・キーラント(ソプラノ)、テリー・ウェイ(アルト)らソリスト陣も充実している。近年、毎年のように取り上げているレパートリーだけに、さらに磨き上げられたアンサンブルに期待がかかる。同じ宗教曲ながら、《マタイ受難曲》とはまた異なる感興を呼び起こすだろう。
教会暦に沿って展開するバッハの教会カンタータシリーズは、28年2月に「新年から四旬節(レント)へ」と題して開催される。憂いを帯びたオーボエの音色が印象的なヴァイマル時代のカンタータ第21番や、華やかで祝祭的な雰囲気に満ちた新年のカンタータ第190番などを取り上げる。後者は器楽パートの大半が失われている作品だが、鈴木優人によれば「大学3年生のときに、BCJでこの作品を録音することになり、宿題みたいに楽譜を復元した」とのこと。自身が学生時代に手がけた復元版による演奏も楽しみだ。
「ベートーヴェンへの道」プロジェクトがついに完結!「第九」と「ミサ・ソレムニス」を2日違いで
一方、2027年のベートーヴェン没後200年に向け、3カ年計画で進めてきた「ベートーヴェンへの道」プロジェクトがいよいよ完結を迎える。このシリーズは、並行して録音も行われている。
「我々にとってのベートーヴェンは、古い時代があるからこそ。今日このあと行われる演奏会で、シュッツやブルーンスの作品の後に、バッハのカンタータをお聴きいただきますが、同様に、バッハを聴いている皆さんだからこそ感じることのできるベートーヴェンがあります」

27年5月のvol.4は「運命と田園」。交響曲第5番・第6番がピリオド楽器の音色でどのように響くかも注目だが、ベートーヴェンにとって師弟関係でもあったサリエリのオルガン協奏曲 ハ長調(独奏:鈴木優人)を組み合わせるのも、BCJならではの選曲。独奏パートは軽やかで、古典派らしい明るさをもった協奏曲だ。
「サリエリというと、映画『アマデウス』の悪役のイメージをお持ちかもしれませんが、非常に優れた作曲家。オルガン協奏曲はトランペットやティンパニを交えた、この時代としては大変珍しい編成で、非常に明るくて天真爛漫な雰囲気をもった作品です。このオルガン協奏曲を合わせて演奏することで、ベートーヴェンの進化の過程、その思考のルーツが分かるのではないかと考えています」
10月に予定されているvol.5では交響曲第7番・第8番が演奏されるが、こちらのカップリング曲は、モーツァルトの名作、クラリネット協奏曲 イ長調。過去にもBCJと共演経験のあるイタリアのヒストリカル・クラリネットの世界的名手 ロレンツォ・コッポラが、初演時と同じバセット・クラリネットで演奏する貴重なステージだけに、聴き逃がせないものとなりそうだ。
そして11月は、このシーズンのハイライトとも言うべき公演が続く。21日には「ベートーヴェンへの道」完結記念特別演奏会として、交響曲第9番と「合唱幻想曲」の2作品が、サントリーホールで鈴木優人の指揮により演奏される。そして23日には、シリーズvol.7として、鈴木雅明が「ミサ・ソレムニス」を指揮する。

「壮大なシリーズの締めくくりということで、最後はとても大きなプロジェクトになりました。『ミサ・ソレムニス』と『第九』は晩年のほぼ同じ時期に作曲されていますが、わずか2日違いで演奏されるということで、ベートーヴェンのいちばん凝縮して深まった姿を、聴いていただきます」
合唱を伴うこの3つの作品を、クリスティーナ・ランツハーマー(ソプラノ)、ロクサーナ・コンスタンティネスク(アルト)ら共通のソリスト陣を迎え、短期間のうちに聴くことができるのは、メモリアルイヤーならでは。壮大なスケールはそのままに、ピリオド楽器特有のアーティキュレーションや音色、そして透明感のある歌声が各声部の動きや音楽の劇的な構造を明瞭に描き出してくれるだろう。
現時点は、東京公演のみ詳細が発表されているが、従来通り、神戸松蔭大学(旧 神戸松蔭女子学院大学)チャペルでの公演も予定されている。バッハからベートーヴェンへ。時代を超えて受け継がれてきた音楽の系譜を、BCJならではの視点でたどる、意欲的なシーズンとなりそうだ。
文:編集部
写真:三浦興一
バッハ・コレギウム・ジャパン
https://bachcollegiumjapan.org
