英国の“ヴィオラ革命”をたどる――N響首席・村上淳一郎が信頼する名手たちと探る音楽の系譜

 NHK交響楽団の首席ヴィオラ奏者・村上淳一郎が、Hakuju Hallで2024年から毎年11月に開催している「ヴィオラ・コレクション」。楽器の魅力をさまざまなジャンルの優れた奏者との共演で聴かせて、好評を博している。

 第3回の今年はイギリス音楽がテーマ。中心となるのは、生誕150年を迎えるイギリスの伝説的な名ヴィオリスト、ライオネル・ターティス(1876〜1975)だ。

 「ターティスさんは、ものすごくバイタリティを持った人でした。演奏家としてはもちろん、教育者としても優秀。自身で楽器も作って、作曲家には作品を書いてもらう。さらにエルガーの有名なチェロ協奏曲を自らヴィオラ版に編曲し、作曲家本人から承認を得て、ヴィオラでもあの名曲を弾けるようにしたとか、この楽器の普及のために何でもやった人。ターティスをきっかけに、イギリスから多くの名曲が生まれました。まさに、“英国ヴィオラ革命”を起した人なんです」

 19世紀の末頃から、イギリスで自国独自の音楽を求めて研究と実践がさかんになった時期に、ちょうどターティスが現れて、ヴィオラという楽器の未知の魅力を明らかにした。イギリス人の素朴ななかにも内側に熱いものを秘めた感性に、ヴィオラの音色や特性が合ったのだろう。

 「今回取り上げる作曲家のうち、ブリッジとレベッカ・クラークはターティスの弟子でヴィオラが弾けたし、ブリテンはそのブリッジの弟子です。最後はブリテンが編曲したパーセルを弾いて、過去にさかのぼります。イギリスの歴史を旅していただけるようなプログラムです」

 この「ヴィオラ・コレクション」シリーズでは、若い演奏家に活躍してもらうこともテーマとしている。

 「情熱的で華やかさが伝わってくるクラークのソナタは、素晴らしい奏者の田原綾子さんに。泣きながら人生を模索していくようなブリテンの『ラクリメ』は、非常に内省的な音を持つ山本周さんの演奏で、ぜひ聴いてみたいと思いました」

 ピアノは村上が全幅の信頼を寄せる津田裕也。最後のパーセル(ブリテン編)のシャコンヌでは、ヴィオラ3人に加え、俊英チェロ奏者の伊東裕も登場する。

 「音楽は、人類の歴史の果実のように、一番いい部分を凝縮したものだと思います。それは自分たちの生きる勇気になり、明日へのヒントにもなる。音楽で一緒に旅をして、昔をふり返りながら、未来につなげていきましょう」

取材・文:山崎浩太郎

(ぶらあぼ2026年11月号より)

ヴィオラ・コレクション vol.3
2026.11/20(金)19:00 Hakuju Hall
問 Hakuju Hall チケットセンター03-5478-8700
https://hakujuhall.jp


山崎浩太郎 Kotaro Yamazaki

1963年東京生まれ。演奏家の活動と録音をその生涯や同時代の社会状況において捉えなおし、歴史物語として説く「演奏史譚」を専門とする。著書は『演奏史譚1954/55』『クラシック・ヒストリカル108』(以上アルファベータ)、片山杜秀さんとの『平成音楽史』(アルテスパブリッシング)ほか。
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